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Book Memories vol.11: 最強の教養 不確実性 超入門

Theme: 自己啓発

Time: 約15分

Difficulty:

 

 

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 突然だが、

 

未来=〝すでに起きた未来〟(予測可能な未来)+ 不確実性(予測不可能な未来)

 

というのが僕たちが生きる世界での「未来」の考え方である。第1項の「予測可能な未来」は人類が計算や過去の知識を用いることであらかじめ知ることができるものであり、良い結果に直結するものであるため、精度をあげることを重要視するべきである。

 しかし、問題なのは第2項の「予測不可能な未来」である。ここには例えば、「バブルがはじける時期」などが該当し、まさに日々私たちに災いをもたらす部分であると言える。この「予測不可能な未来」は不確実なものであるがゆえに、完全に克服することができず、生きる上で何とかうまく付き合っていくしかない。そのためにも、人間の不安を生み出す「不確実性」が引き起こされる原因を知り、人間が陥りがちな心理状態を知っておく必要がある。

 

 まず、不確実性は「ランダム性」と「フィードバック」の2つが原因と言える。

人は何事も因果関係で考えてしまうことから、ランダム性を過小評価してしまう傾向がある。

フィードバックとは、結果が原因を生みそれが連鎖的に続くというものである。フィードバックが生む不確実性は、ランダム性に起因する不確実性とは違って、部分的には 予測可能性を秘めているが、その予測可能性は、厳密で断定的な予測にはなりえない。

連鎖反応がいつまで続くのか、本当に暴落に至るのか、本当に極端な結果が起きるのか、どれほど極端なものになるのか、に関しては誰も断定的なことを言えないのである。

バブルのおいては、いつ弾けるか、いつ発生するのか、を高い精度で予測することはできない。

 

 人間の心理バイアスの視点から考えると、成功のジレンマ・自己奉仕バイアス・自己正当化・同調・不確実性の過小評価・予測への依存・気合で乗り切ろうとする・集団極性化(意見の排除)といった要因が不確実性に対する対処を難しくしている。

  成功のジレンマの「良いことが良いことを生む」メカニズムにおいては、人の心理に将来の大失敗の種を植え付ける。例えば成功者には成功の要因があるが、そこには必ず偶然の働きもあったはずであり、したがって成功や失敗も、すべては確率的に捉える必要がある、といった具合である。

 

 不確実性に対して予測が当たらないことが問題なのではなく、 予測できないことに予測することで対処しようという考え方がそもそも間違っているのであり、どのようなリスクをどれだけとるべきかを決定することこそが、不確実な世界における意思決定の基礎となる。

投資において応用すれば、 不確実性に対して勝率といった短期的な結果を意識するのではなく、小さな失敗を許容しながら長期的に続けることで確率に収れんしていくことを意識して結果として利益が出ることを意識する。正確な予測をしようするのではなく、むしろ自分の予測が外れることを常に想定しながら、リスクをコントロールして悪い方向に働く負の連鎖からいかに素早く抜け出し、良い方向に働くフィードバックからいかに大きな成果を上げられるかが、長期的な成果を左右する決定的な要因となる。

 

 

 今回そのようなことを学んだのは、

 

最強の教養 不確実性 超入門

 

田渕直也著 ディスカヴァー・トゥエンティワン

 

という本。

 

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 link below  ↓

 

 自分なりに大事だと思ったところをまとめたので、興味のある方は読んでいただければ、と思う。

 

  特に本を読んだ上で自分なりの解釈だったり派生させたことを書いたりしているわけではないが、一種の教科書的な感じで大事な点をさくっとまとめ、自分の知識の幅を広げていくためのアウトプットのツールとして使うことにしている。また記事の最初にVocabs欄を設け、キーワードや専門用語などを載せているので知識を効率的に広げていただきたい。読者の方々にはもし知らないことがあれば身につけていただきたいし、ただ要約しているだけなので、よくわからない点があれば自ら購入して読んでいただくなりと、自由に使っていただければと思う。

 

 

 

 

 

 

  [Vocabs]

 

ラプラスの悪魔:架空の全知全能の存在。

概念を提唱したフランスの物理・数学者、ピエール・シモン・ラプラスにちなむんで名付けられる。


決定論:すべての事象は因果関係によって決定され、確率などというものは本当には存在しない、だから将来は、実はもうすでに決まっている。そうだとすれば、将来というものは、(現実的には計算が複雑すぎて予測できないとしても) 原理的には 予測が可能ということ。

 

ランダムウォーク:ランダムな変動が継ぎ合わされて一連のつながりとなったもの。

日本語では「千鳥足」。


正規分布:釣鐘型の分布。

ランダムな動きの積み重ねが、こうした正規分布を形作る。
正規分布では、中心にある平均とか期待値と呼ばれる値が実現する確率が一番高く、それよりも大きな値となるか小さな値となるかは五分五分で、上下いずれにしても平均から離れた値になるにしたがって、確率はどんどん小さくなっていく。

正規分布統計学や確率論における最も基本的な概念のひとつ。
確率計算が簡単にできるという点も、正規分布の特徴のひとつ。


平均:期待値。

「どこに分布の中心があるか」を決める。


標準偏差:「分布がどのくらい広がっているか」を決めるパラメータ。


蓋然的思考ロバート・ルービンの、モノゴトを断定的に捉えず、確率的に対処していくという考え方。
何か意思決定をする場合に、ただひとつの断定的な予測に基づいて意思決定するのではなく、客観的な複数の予測に基づいて判断をしていく。
その期待値とリスクの大きさを比較して、そのうえで意思決定をしていく。

 

VaRValue at Risk=バリュー・アット・リスク。

単にバーと呼ぶこともある。
致命的な損失を被るリスクの測定方法。

よく予想最大損失額と訳される。実際には 条件付きの予想最大損失額。


信頼空間:「生き残り確率」とでもいうべき確率の範囲。

 

ブラックマンデー(暗黒の月曜日):1987年 10 月 19 日の月曜日、米国株式相場は前週末比で 22・6%も下落し、一日当たりとしては史上最大の暴落を記録した。


ファットテール問題ファットテールとは、 稀にしか起きないと考えられている極端なデキゴトが、実際には頻繁に起きることを意味している。もともとは「分厚い裾」というような意味の言葉で、「裾」は正規分布で中心から離れた左右の両端のところを指している。正規分布を富士山にたとえれば、その裾野に当たる部分。この「裾」が正規分布で想定されるよりも分厚い(つまりは発生確率が高い)ということから、ファットテールと呼ばれるようになった。
ファットテールが存在するということは、 極端な事象が起きる確率を正規分布では正しく捉え切れない ことを意味している。


べき:「xのa乗」などいわゆる累乗によって表される値のこと。

べき分布は、ある事象が起きる頻度または確率が、何かの値の「べき(=累乗)」によって表されるものをいう。


ナイトの不確実性:不確実性の定義として有名。
この定義を提唱したフランク・ナイトは、結果は予測できないものの、その発生確率が推定できるものを「リスク」と呼び、発生確率すら推定できないものを「不確実性」と定義した。


ブラックスワン:過去に起きたことのない極端なデキゴトが起きることを象徴する意味でしばしば用いられる。

ファットテール現象のなかでもとくに極端な事象を指すもの。

 
追証:株価が下がって自己資金が目減りし始めると、投資家に自己資金をさらに積み増すように求める。
追証に応じられない投資家は、買っていた株を即座に売却して証券会社に借りたお金を返さなくてはならない。こうした仕組みによって、株価が一定以上に下がっていくと、追証に応じられない投資家からのやむにやまれぬ売りが増えていくことになる。そして、株価が下がったことによって生じたこの売り自体が、新たな株価下落の要因となっていく。

 

フィードバックべき分布を生む事例に共通してみられる、ある結果が生まれたときに、その結果が原因となって結果が再生産されるという自己循環的なプロセス。
フィードバックとはさまざまな意味で用いられる言葉であるが、一般的にいえば、 あるプロセスから生まれたアウトプットを、そのプロセスのインプットとして戻すことをいう。


フィードバック・ループ:フィードバックが繰り返されること。

 

正のフィードバック:結果を増幅させていく方向に働く自己増幅的なフィードバック。良い方向に作用するものか悪い方向に作用するものかは問わず、いずれにしても結果を増幅させるのが正のフィードバック。


負のフィードバック:自己抑制的なフィードバック。

自己増幅的フィードバックがときとして極端なデキゴトを生み、それがファットテールべき分布となるのとは対照に、 自己抑制的フィードバックは極端なデキゴトの発生を抑制し、安定した平均的状況に押し戻そうとする作用を持つ。


揉み合い:株価は一定の範囲で上下動を繰り返す相場。


証券化:さまざまな資産を裏付けにし、投資家が投資しやすいように債券などの形に整えて販売する技術。とても高度で、非常に有益な一面もある金融における重要な技術革新のひとつ。


バタフライ効果:小さな原因が大きな結果を引き起こすこと。


資産効果:株価の上昇で利益を得た投資家が積極的な消費行動をとることで景気を押し上げる。


音楽が鳴っている間は踊り続けよう:バブルに警鐘を鳴らしたりせずに、ただそのときの波に乗るというこの戦略。


今回は違うThis time is different症候群:「今回の株価上昇は今までのバブルとは違って、実体を伴った持続的な動きだ」と毎回思い込む。カーメン・ラインハートとケネス・ロゴフが呼ぶ、過去から学ばない心理的な反応パターン。そして、バブルが弾けてクラッシュが起きると、今度は「今まで経験したことのない危機」と騒ぎ立てる。

 

システミック・リスク:相互依存の強さがゆえに、ひとつの金融機関の経営破たんが他の金融機関に連鎖していくリスクもまた大きくなっている。

金融機関同士の連鎖的な破たんによって金融システムが麻痺してしまうリスク。


高頻度取引(HFT):高速回線と高性能コンピューターを使って、ミリ秒(千分の一秒)単位で株の売買を繰り返していく。
HFTは、主にヘッジファンドや専用業者が取り入れている取引手法。
実際の売買手法はさまざまだが、ミリ秒単位で売買の発注をこなし、わずかな値幅で機械的に売り買いを繰り返すというものが多い。そのため、一般投資家にとっても、HFTが売りでも買いでも相手になってくれるため、いつでも売買がしやすくなるというメリットがある。
だが、このHFTが何かをきっかけに相場の急変動を引き起こす可能性も指摘されている。


フラッシュ・クラッシュ:急激な価格変動

 

開発独裁型経済:中国の一党独裁の政治体制と市場経済をミックスしたもの。


テイクオフ離陸):経済成長中の一時期。
持続的な経済成長が始まるためには、さまざまな条件が整う必要がある。
条件が伴わないままに産業の振興を進めても、持続的な動きには至らないことが多い。
いったんテイクオフがうまくいくと、経済成長自体が経済成長を生み出す自己増幅的なプロセスに移っていく。


心理バイアス認知バイアスともいう。

人の心理に備わる傾向的な癖のこと。


自己奉仕バイアス:人は、成功の要因を自分に求めたがる。その成功が他人や偶然のおかげだとは思わない。一方で、失敗については自分以外にその要因を求めたがる。 「うまくいったのは自分のおかげ、うまくいかなかったのは他人のせい」というもの。
自己奉仕バイアスのおかげで、人は失敗を引きずらずに、断乎とした前向きの行動がとれるようになる。


同調:周囲の顔色や場の空気を窺いながら、それに合わせて自分の考えを無意識のうちに修正するバイアス。


スローシステム:合理的な結論を導く思考システム。


ファストシステム:論理的な思考ではなく、パターン化された直感的な反応によって瞬間的に判断を下す思考システム。


ポール・チューダー・ジョーンズ:高名なヘッジファンドマネジャー。
「英雄を気取ってはいけない。自己中心的な考え方をしてはいけない。常に自分自身とその能力を疑ってみる。自分はうまいんだなどと思ってはいけない。そう思った瞬間、破滅が待っている」(『マーケットの魔術師』)


サンクコスト:埋没費用。

その計画にすでに投じた費用。

 

カサンドラの声カサンドラとは、ギリシャ神話に出てくるトロイの王女の名前。彼女は、戦争になればトロイは敗れ、滅亡すると予言をしたのだが、誰もその言葉に耳を傾けることなく戦争を開始し、結局その予言どおりにトロイは滅亡してしまった。 「カサンドラ」とは、組織にとって都合の良くないことを予測したり、組織の将来に対して警鐘を鳴らしたりする人間のこと。


集団極性化:異論を排除して意見の統一を図ろうとすると、組織の意思決定が一方向に偏った極端なものになりやすいとされる。ときに非常に危険な意思決定を行ったり、あるいは慎重にすぎる結論が導かれたりしてしまう。


イノベーションのジレンマ:既存の製品やサービスで大成功を収めた大企業が、まったく新しい「破壊的イノベーション」を提供する新興企業に競争で敗れることを意味する。


計画のない進歩: 明確な計画のもとで一直線に進むのではなく、環境の変化に合わせて柔軟に戦略を修正していくことで、あたかも生命が長い時間をかけて生き抜き、ついには人類にまでたどり着いたような進化と似たような進歩を実現するというもの。

この概念を提唱しているジェームズ・コリンズとジェリー・ポラスの名著『ビジョナリー・カンパニー』では、長期間にわたって成長を続ける超優良企業には、こうした戦略の柔軟性が共通してみられるとしている。


マルチンゲール:投資の世界の必勝法として知られるやり方。

ある株を買って、値下がりしてしまっても、売却して損失を確定させたりせずに、その株をどんどん買い足していく手法。
わずかな確率で巨大な損失を被る可能性と引き換えに、わずかな利益を得る確率を引き上げているにすぎない。

 

 

 

 

 

 

 

 

  [本文]

 

[1. ランダム性]
[2. フィードバック]
[3. バブル]
[4. 人間の心理バイアス]
[5. 人生を長期的成功へと導く思考]

 

 

・人は、いつも〝予想外〟に振り回され、なおかつ〝予想外〟にとても弱いのである。 不確実性を理解することは、この〝予想外〟へ対処する方法を学ぶことにほかならない。


・投資における成功は、相場の行方を正確に予想することよりも、〝予想外〟のデキゴトにいかに対処するかにかかっている。


・「相場はプロでも基本的には予測できない。絶対に儲かるやり方というものも存在しない。だから、簡単でうまい話を求めるよりも、うまくいったときにどうするか、うまくいかないときにどうするかをしっかり身につけることが一番重要だ」。


・世の中には数多くの予測が出回っていて、そのうちのいくつかは実際に当たってしまう。どんなあてずっぽうでも、現実的に起こりうるものであれば、一定の確率でそれが実現するからだ。これもまた、不確実性の非常に重要な性質のひとつ。


・不確実性にどのように向き合い、そこから生まれるリスクをいかに制御していけるかが、すべての意思決定にとって、決定的に重要な要素となる。だからこそ、不確実性を正しく理解することは現代社会を生きるすべての人にとって必須の教養といえる。


・「不確実性に対して人はどのように反応しがちなのか」を理解しなければ、本当に不確実性を理解したことにはならない。


・残念ながら、人は不確実性に対して、誤った心理的反応からパターン化された失敗をしてしまいがちな生き物なのである。その意味で、本当のリスクは、不確実性そのものの中ではなく、人や組織の心理の中にこそ存在する。


・不確実性の性質や影響を考えれば、短期的な結果に振り回されることなく、長期的な成功の可能性を高めていくことが唯一の解決策となる。

 

 


1. ランダム性  ―予測不能性が人を惑わす―


未来を予測することはそもそも可能なのか?

〝予測できる未来〟と予測できない未来

 


・【未来の公式】

未来=〝すでに起きた未来〟(予測可能な未来)+不確実性(予測不可能な未来)


景気動向や株価変動は、不確実性の比重がかなり高い事象。


・未来の公式が意味することにはいくつか重要な点がある。

 

第一に、未来のデキゴトには多かれ少なかれ、不確実な要素が含まれる。

第二に、事象の種類(人口動態なのか景気動向や株価変動なのか)によって、その不確実性の影響の大きさは異なる。

未来のデキゴトに備えるためには、最初にきちんとこの整理をしておくことが大切。


リスクをとらないリスク


・不確実性(およびリスク)には、プラスの面とマイナスの面の両方がある。

予想外に悪いデキゴトが起きることもあるが、予想外に良いデキゴトが起きることもある。不確実性の中でリスクをとらなければ、そのチャンスを得ることはできない。
だから、 不確実性に対処するとか、あるいはリスクを管理するということは、必ずしも不確実性を除去したり、リスクを抑制したりすることと同一の意味にはならない ことに注意する必要がある。


・「リスクをとらないリスク」には、非常に厄介な一面がある。

それは、「何かをして失敗する危険性」は比較的明瞭に意識することができるのに、「何かをしないことによって生じる危険性」は明確に意識することが難しい、ということ。
それゆえ、明確に意識しやすい「何かをして失敗する危険性」に目が向かい、リスクを恐れて何もしないという方向に流れていきやすくなる。だが、それは目に見えない「リスクをとらないリスク」を冒していることにほかならない。 だから、リスクは忌避すべきものではなく、適切にとっていくものと考えるべき。


どのようなリスクをどれだけとるべきかを決定すること こそが、不確実な世界における意思決定。


・最初に解明すべき第一の不確実性の源は、ランダム性と呼ばれるもの。


「ランダムである」とはどういうことか

事前の確率、事後の結果

 


・確率の厄介なところは、 実際に結果が出てしまうと、確率が意味を持たなくなってしまうところにある。

サイコロを振る前は確率しかなく、実際のサイコロを振った後には結果しかない。だが、結果を数多く積み上げていくと、そこには再び確率が現れる。これは、確率というものを理解するうえでとても重要な点。


人は「明確な原因」を探したがる


・自分にはほぼ起きないことが誰かには起きる というこの現象は、確率というものの重要な帰結のひとつである。だが、それは人の感情にざわざわとした違和感を生み出さずにいられない。

 

・ランダム性の特徴


因果関係によってではなく、確率によってモノゴトが生起する(偶発的)。そのため、事前に結果を知ることはできない。

個々の結果に対して確率は意味を持たない。しかし、結果を多く積み上げていくと、その積み上げた結果の集合体は確率に従って分布するようになっていく。

確率がわずかしかない事象では、自分がその事象に出くわすことはまずないが、他の誰かが出くわすことは普通にある。


ランダムは本当に予測できないのか
量子力学からの反論


・すべてを予測しようという考え方は捨てなければならない。

 

 

ランダム性に起因する不確実性に対処する方法

確率的に対処する

 

・ 確率的に記述できる不確実性には確率的に対処する。
すなわち第一に、期待値でモノゴトを考えるということ。


・長期にわたって投資で利益を上げるためには、単なる博打を繰り返して短期的な勝ち負けに一喜一憂するのではなく、何十回、何百回と投資を繰り返した後に、トータルで利益を上げることを考えていかなければならないのである。どうすれば期待値をプラスにできるかを考えることが、確率的に対処する第一のポイント。


・期待値というものは一回一回の結果には明確には現れず、数多く試していくことによって次第に浮かび上がってくるものである以上、仮に期待リターンがプラスのやり方を見つけたとしても、それが直ちに短期的な成功を保証するわけではない。だから、長期間そのやり方を続けていくことが必要となっていく。


・確率的に対処する第二のポイントは、たったひとつの断定的な予測に決め打ちをしないということ。


・100%確実なことなどない。将来におけるすべてのことは確率的に捉える必要がある。そして、一回一回の結果ではなく、長い目で見たトータルの結果でその成否が判断されなければならない。これが、不確実性に対処する一大原則。


リスクを測定する


・うまくいくときにできるだけ波に乗るということも重要だが、その前にまず重要なのは、 うまくいかないときに再起が不能になるほどの致命的な損失を被って、次にうまくいくかもしれない機会を永遠に失うことがないようにすること。

予想外に悪いデキゴトが起きたときにでも、損失が致命的なものにならないようにコントロールしていくことが決定的に重要になる。これが、リスク管理の本質。


リスク管理の基本〝VaR〟


・もっと現実的な確率の範囲というものを決めて、その範囲内における最大の損失額に備えるという考え方が必要となる。


とれるリスクの量を知る


・最初に、自分の財政事情から見て「いくらまでの損失なら再起が可能な状態を維持できるか」をあらかじめ把握しておく。


・〔1−信頼区間〕の確率でVaRを超える損失が発生してしまうことは、VaR計算ではもともと想定されていることである。だから、実際に損失が発生したとしても、それはリスク管理の失敗とはいえない。本当の意味でのリスク管理の失敗とは、損失の発生確率を過小に見積もってしまうこと。


・信頼区間を限りなく100%に近づけていくと、それに要するコストも無限大に近づいていく。


人はランダムなデキゴトをランダムだと感じられない

 

・人はランダムなデキゴトに遭遇しても、それをランダムなものとは感じないようにできているということ。だから、確率的に対処するという考え方そのものは理解できても、そのやり方を当てはめるべき対象を正しく見極めることができない、という別の問題が生じる。


・人はランダムな事象では、明確なパターンが現れるとは思わない。だが、ランダムな事象が明確な結果を生むことは、決して不思議なことではない。


・明確な結果を伴うデキゴトには必ず明確な原因があると考え、確率的に対処するという考え方を当てはめようとは思わない。だから、たまたま相場予測を当てた人がいた場合に、それを偶然の産物であるかもしれないなどとは考えずにカリスマ視してしまう。


世の中はランダムに満ちている


・人はランダム性の存在とその影響を常に過小評価してしまう。


・成功も失敗も、明確な原因による必然的な結果だと捉える。だが実際には、成功・失敗も、ある程度は確率的な現象である。もちろん成功者には成功の要因があり、失敗をしたものには失敗の要因があったかもしれない。だが、そこには必ず偶然の働きもあったはずであり、したがって成功や失敗も、すべては確率的に捉える必要がある。

 

column01 ファンドマネジャーはサルに勝てない

 

・ファンドマネジャーたちの平均的な運用成績は極めて凡庸なものであることが示されている。この事実は、運用の専門家だからといって株式相場の変動を他の人よりもうまく予測できているわけではないことを意味している。

 


2. フィードバック  ―原因と結果の不釣り合いが直感を欺く―


ランダム性では説明できないもうひとつの不確実

予想外の大変動


・極端に大きな株価変動は、正規分布の前提で計算するよりもはるかに頻繁に発生している。

 

正規分布で稀なデキゴトの発生確率を正しく見積もることができないのであれば、そのデキゴトはランダムな動きの積み重ねとは別の要因から生まれていることになる。なぜなら、ランダムな動きの積み重ねは正規分布で表せるはずだから。


べき分布の出現

 

べき分布の特徴


平均から離れたデキゴトが起きる確率は逓減していくが、正規分布ほどには減っていかない。

その結果、平均から大きく離れた極端なデキゴトが、正規分布で想定されるよりもはるかに頻繁に起きる。

見方を変えて、発生確率を一定比率で絞っていくと、その絞った確率で起きるデキゴトはどんどん平均から離れた極端なものになっていく。

順位で並べると、上位にいけばいくほど極端さが増していき、最上位階層は平均から大きくかけ離れた存在となる。


べき分布には、式が「べき(=累乗)」で表されるという共通項はあるものの、その式にはいくつものパターンが存在し、その式を用いて確率を計算するためには、これまたいくつものパラメータを推定する必要がある。


・事後的に、過去のデータに整合的になるように式やパラメータを推定することはもちろん可能だが、それによって 将来起きる極端なデキゴトの発生確率を必ずしも測定できるようになるわけではない。


・極端なデキゴトの発生確率を推定することが現実的に困難であることは、不確実性への対処を考えていくうえで重要な点になる


原因不在の株価大暴落


ブラックマンデーという史上最大の暴落は、納得できるような明確な原因なしに起きた というのが、正直なところ。逆にいえば、 予測可能な明確な兆候がなくても、これほどの大暴落が発生しうる ということになる。 ただし、原因が明確でないとしても「どのようにして暴落が広がっていったか」というプロセスについては、ある程度わかっている。そしてそれは、ブラックマンデーに限らず、過去に株式市場で起きたすべての暴落劇に共通するものだ。「売りが売りを呼ぶ」というプロセスである。

 

・株価が下落して保有する株式に損失が発生する状況になると、種々のリスク管理ルールや規制によって保有株を売却しなければならなくなる。このリスク管理のための売りが、やはり新たな株価の下落要因となる。  

このように、株価が下がると株を売らないといけない投資家が出てきて、そのためにさらに株価が下がる。そして、それによって株価がさらに下がると、また新たに別の投資家が株を売る必要に迫られるという具合に、連鎖的な反応が生まれる。これが「売りが売りを呼ぶ」といわれるプロセス。


重要な点は、「売りが売りを呼ぶ」プロセスが発動されるきっかけとなる最初の株価下落が、明確な理由によって引き起こされたものである必要はないということだ。 だから、 たまたま 起きただけのランダムな株価下落が、このプロセスを引き起こす可能性もある。


・さらにもうひとつ重要な点は、「売りが売りを呼ぶ」プロセスがいったん始まると、それがどこで止まるかはわからない という点。


結果が結果を生む


・「売りが売りを呼ぶ」プロセスには、方向性が存在する。株価が下がったことがさらなる株価下落の原因となるのだから、たまたま同じ方向の動きが積み重なる場合よりも、はるかに頻繁に極端な結果が生じることになる。これが、ファットテールを生み出す大きな要因となる。


予測が不可能となるメカニズム


・原因があって結果が生まれるのならば、予測は可能なのではないか。

なぜ、そこに不確実性が生まれるというのだろうか。


第一のヒントは、フィードバックには異なる結果を生むいくつものパターンが存在するという点。
自己増幅的フィードバックと自己抑制的フィードバックというふたつの相反するメカニズムがあり、自己増幅的なフィードバックの中でも、上向きと下向き(あるいは、良い方向と悪い方向)のふたつのものがある。どのフィードバックが起動するかがわからなければ、結果を予測することはできない。
ランダムな動きも絡んでくる。現実の世界では、ランダムな変動とフィードバックは独立したものではなく、混在している。因果関係を持たないランダムな変動が、いずれかのフィードバックをランダムに引き起こすという役割を果たす。

ランダムな変動がフィードバックの過程に影響を与え始めたとたんに、フィードバックの過程に影響を与えるすべての要因を正確に知ることはできなくなる。


・株価の下落を増幅しようとする力と、それを抑制しようとする力が同時に存在する。そして、新たな売りが優勢になれば自己増幅的フィードバックが勝り、新たな買いが優勢になれば自己抑制的フィードバックが勝ることになるわけだが、 どちらが勝るのかはほんのわずかな違いによって決まり、ここでもときにランダムな要因が決定的な影響を与える。


・あるフィードバックがいったん優勢になったことがわかれば、それがしばらく続くと予測することはできるのではないか。

この点については、実はそのとおりなのである。フィードバックが生む不確実性は、ランダム性に起因する不確実性とは違って、 部分的には 予測可能性を秘めている。だが、その予測可能性は、我々が求めているような厳密で断定的な予測にはなりえない。


・現時点でどのフィードバックが強く現れているかがわかったとして、あくまでもそのフィードバックがしばらく続く可能性が、ランダムな動きのときよりも高まっているはずだということがわかるだけである。だから「株価が大きく下落して売りが売りを呼ぶプロセスが連鎖しているように見えるので、これが続いて予想外の暴落に発展する可能性がある」と言うことはできても、その連鎖反応がいつまで続くのか、本当に暴落に至るのか、断定的なことまでは言えないのである。


・フィードバックが生む不確実性

 

自己増幅的フィードバックは結果を増幅し(良い方向に増幅する場合と悪い方向に増幅する場合がある)、自己抑制的フィードバックは結果を抑制する方向に作用する 。

だが、どのフィードバックが優勢になるかはとても複雑で、ランダムな変動もそこに影響を及ぼすために、前もって予測することはできない 。 

フィードバックは循環的なフィードバック・ループを形成することがあるため、いったんいずれかのフィードバックが優勢になったら、それがしばらく続く可能性が高いだろうと予測することは可能である。

ただし、フィードバック・ループがいつまで続くかを予測することまではできない。


・異なるフィードバックの間の〝揺らぎ〟と、ランダムな要因による作用が相まって、 個々のプロセス自体は予測可能なはずなのに、全体としてみれば予測が不可能 という状況が生まれる。これが、フィードバックが生む第二の不確実性。


予想をはるかに上回ったサブプライムローン危機


サブプライムローン・バブルの崩壊がこれほどの危機を招くことを、バブルの崩壊が明らかになったパリバショックの時点においてすら誰も予測できなかった。原因の大きさと結果の大きさが、まったくリンクしていないのだ。 これもまた、自己増幅的フィードバックによって、結果が増幅されたことによって生まれた極端な結果のひとつと考えられる。


・大きな変動のさなかでは、結果が増幅されて予測をはるかに超える極端な結果に行き着く可能性があるということだ。だが、本当に極端な結果が起きるのか、そして、それがどれほど極端なものになるのかは誰にもわからない。


・金融市場では、大小問わずバブルがたえず生まれては消えていく。だが、 バブル崩壊の結果の大きさは、原因となるバブルの大きさでは測れない。


・カオスは、一定のメカニズムに従っているので、原因があって結果を生むという因果関係を持っている。だが、その 原因のとるに足りないわずかな違いがフィードバック・ループによって大きく増幅され、結果をまるっきり違ったものにしてしまう。その結果、原因と結果の対応関係が不規則なものとなり、原因から結果を知ることが事実上不可能となる。


・カオスにはふたつの重要な特徴がある。

 

まず、 原因と結果の大きさは結びつかない。小さな原因からでも大きな結果が生まれるし、その逆になることもある。

そして、結果の違いを生むのは、ほんのわずかな、とるに足りないものであり、しばしばそこにランダムな変動が絡んでくるので、 結果を予測することができない。これがカオス的不確実性。


・カオス的不確実性というものは、人の認知能力にとってはとても厄介な代物で、正しく認識することが極めて難しいもの。

人間にとって、ランダム性も十分に厄介だが、カオスはそれに輪をかけて厄介なものだということ。


・カオスは、極端なデキゴトをランダム性よりも頻繁に引き起こすことができる。カオスのおかげで、世界はさらに予測不能なものになり、予測がまったくの的外れとなる事態が起きてしまうようになる。


・「世界は、ランダムである以上に不確実」

 


column 02 誰にも予想できなかったフランス革命の劇的な展開


・歴史上の大事件の多くは、誰かが計画的に目的を持って行った必然的なデキゴトなどではない。偶然とフィードバックという隠れたメカニズムによって突き動かされ、予想を超える結果を生んだものなのである。

 


3. バブル  ―なぜ「崩壊するまで見抜けない」―


バブルはこうして繰り返す

バブルの歴史


・バブルは歴史の中で何度も繰り返され、そしてそのすべてが崩壊を迎えてきた。その一連の過程は、表面に現れる形がそれぞれ少しずつ異なっているものの、本質的には非常に似通っている。

ちなみにバブルとは中身のない〝泡〟というような意味合いがあるが、 実際には、経済的な繁栄や画期的なイノベーションなど、実体を伴った背景から生まれることが多い。


バブルはいつか必ず弾けるが、いつ弾けるかを予測することはできない。


・バブルは、一見何もないところからでも生まれるが、基本的には新時代の到来、あるいは人々のライフスタイルや産業基盤を塗り替える画期的なイノベーションなど実体を伴った動きから生まれ、やがて熱狂を迎え、崩壊する。 そして、 バブルが崩壊するときには、例外なく急激な逆回転の動きがみられ、株式市場などの暴落(クラッシュ)を招く。


・画期的なイノベーションや社会の変革は、バブルの発生と崩壊を乗り越えて初めて着実に根付き、その一連の荒波を生き残った者だけが新時代の覇者として大きな成功を収めることになる。

 


嫉妬と欲望

人間が将来を予測するときの癖


将来を現在の延長線上に捉えがちだということ。
今起きていることは、将来もそのまま続いていくと人はイメージする。予想外のデキゴトや、今起きていることとまったく逆のデキゴトが起きるとは考えない。


なぜ後にならないとわからないのか


・いったん発生したバブルには、理由があろうがなかろうが、ひとりでに成長していく性質がある。だから、仮にバブルが生じたことがわかれば、その動きが「自己増幅的に拡大していく可能性がある」という予測をすることはできるようになるのだ。だが、だからといって、バブルの発生やその消長を高い精度で予測できるということにはならない。


・バブルの発生そのものを予測することは極めて難しい。バブルを育む経済的な要因が多くそろっていたとしても、バブルが必ず起きるとは限らないからだ。 同じような条件がそろっていても、バブルが起きることもあれば、起きないこともある。


・歴史上のバブルの多くは、後から振り返ってみて「あれは明らかにバブルだった」ということがわかるのであり、渦中にいるときも明確にわかるというものではない。


・仮に今がバブルだと断定できたとしても、それがいつ終わるのかを予測することは難しい。


音楽が鳴っている間は踊りつづけよう

 

・今がバブルなのかそうではないのか、あるいはバブルだとしてそれがいつまで続くのかなどはどうでもいい。とにかく波が来たと感じたら、それが本当の波かどうかにかかわらず、とりあえずその波に乗る。そして、波(とおぼしきもの)が続いていると感じている限りはそれに乗り続ける。


・波に乗るとしても、自分もまた群集の一部になってはいけないのである。 不確かなことを断定的に判断せず、流れてくる音楽に合わせて踊りながら、一方で、冷静さと合理的な精神をかたときも失わない。それだけが、バブルを生き残るやり方。


グローバリゼーションやネットワーク化は負の連鎖を強める

 

・代表的なクラッシュの事例を並べると、 プロセスは非常に似通っているものの、株価下落の幅、調整に要した期間、経済に与えた影響の大きさはばらついている。極端なことは起きるものだが、それがどのくらいの規模のものになるか、どのくらいの長さのものになるかは、かなり千差万別。


・技術革新によって、フィードバックのプロセスがさらに強力で、瞬時に効果を発揮するものになっているのだとしたら、フィードバック効果を踏まえたリスク感覚を身につけることが、今を生きる我々にとってますます重要なものになっているといえる。

 


経済成長の持続力

経済成長が経済成長を生む


・強い経済成長は、戦争などの外生的な要因によって中断されても、すぐに再開する力強いメカニズムを持っている。


・経済成長という強力で持続力のある自己増幅的な動きは、フィードバックが生み出す予測可能な動きの典型ともいえる。ただし、それが「経済成長期にある国では経済危機など起きない」とか、「来年も高成長が続く」といったたぐいの断定的な予測につながるわけではない点は注意が必要。


・経済成長期にも経済が破滅的な状況になることはあり、短期的にはどんなことでも起こりうる。ただし、経済成長を促すメカニズムが完全に失われない限り、経済成長には自らを持続させる力があるということ。

 


予想外のデキゴトが生む葛藤とプレッシャー

成功のジレンマ


・ふたつあるフィードバックのうち、自己抑制的なフィードバックは対処することがそれほど難しくはない。何か予想外のことが起きても、やがて見慣れた昨日までの世界へと戻っていこうとするものだからである。

人の心を惑わし、問題を引き起こすのは、主に自己増幅的フィードバックの方。


・フィードバックによる成功のメカニズムや、そこで偶然が果たしている役割の大きさを理解しないままに成功の連鎖を駆け上がると、「すべては自分の才能と努力のおかげだ」という意識に囚われやすくなってしまう。

自分に自信を持つこと自体は悪いことではないが、こうした意識が過剰になると深刻な副作用を生む。


・クラッシュは、原因となったバブルの大きさにかかわらず、どのくらいの大きさのものになるかがわからない。バブルで生まれた成功や利益の半分を消し飛ばして終わることもあれば、そのすべてを吹き飛ばして元の木阿弥に戻してしまうこともある。さらには、バブルが生み出した以上のものを消失させて、拭いがたい傷跡を残すこともある。


・良いことが続く過程で 成功を収め、自信に凝り固まった人間は、そのプロセスが反転しても今までのやり方に固執して、やがて起きる逆回転のフィードバックの中で致命的な失敗を犯すことになる。

 

・大成功を収めた者がやがて破滅に至るということは、歴史の中で繰り返し見られるパターンのひとつである。そして、その破滅は、往々にしてそれまでの成功によってもたらされる。

つまり、「良いことが良いことを生む」メカニズムは、人の心理に将来の大失敗の種を植え付けるものでもある。


悪いことが悪いことを生む


・企業が本当は経営破たんせざるを得ない状況でなかったとしても、株価が急落し、新聞にコメントが載ることで、人々は疑心暗鬼に陥り、その企業の株を保有している投資家は一刻も早く逃げ出そうと保有株を叩き売る。それがさらなる株価の急落を招く。 投資家だけではない。取引先も、取引銀行も、経営破たんが取り沙汰されて株価が急落する企業に対して不信を強め、やがて自分たちを守るために取引や融資を打ち切ってしまう。それが、本当にその企業を破たんに追い込む。


・危機的な状況で何かに失敗すると、その失敗を取り返そうとして焦ってしまい、かえって失敗を重ねるようになってしまう。こうして、悪いことの連鎖が失敗の連鎖を呼び、やがて致命的な事態に至る。


人は、 自己増幅的フィードバックがもたらすデキゴトの連鎖に対して、それが良い方向に向かうものであろうが、悪い方向に向かうものであろうが、間違った反応パターンを示し、失敗をしてしまいがちだから、不確実性がもたらす本当のリスクを理解するためには、こうした人間の心理的な反応パターンをあらかじめ知っておくことが必要。

 


column 03  陳勝呉広 ―劇的な成功と、劇的な没落―


・自己増幅的なフィードバックの力は想像を絶するほどに強力で、しかも一瞬で逆向きの急反動に切り替わる。


・歴史とは人々が織りなすドラマであり、そこには多くの英雄や天才が登場する。だが、その背後には、そうした 個々の存在を超える非常に強力な推進力が働いている。


・自己増幅的なフィードバックと自己抑制的なフィードバックのせめぎ合い、偶然によるスイッチの切り替え、そうしたメカニズムが歴史を動かす原動力となっている。

 


4.  人間の心理バイアス  ―失敗はパターン化される―


人の心理的反応  

皆が同じ方向に間違える


・人が 常に 合理的にふるまうなどと考えてはいけない。 自分は合理的な人間だといくら思っていたとしても、すべての人の心理にはさまざまな心理バイアスが染みついていて、時と場合によって自分でも知らないうちに不合理な行動や判断をしてしまうもの。


・人間の心理バイアスの特徴を知ることで、人がどの方向に間違いやすいのかはあらかじめ知ることができる。人の判断の偏りは、多くの場合パターン化されており、心理学者のダン・アリエリーのベストセラーの題名どおり『予想どおりに不合理』なのである。


過剰な因果関係づけ


・仕事がデキる人ほど、複雑なデキゴトを簡単な因果関係に置き換えることが得意であることが多い。だが、この過剰な因果関係づけによって、現実の世界の複雑性は無視され、不確実なデキゴトに対しても因果関係を理解することで対応が可能だ、という錯覚を生んでしまう。それが、不確実性を正しく理解して適切に対処するうえで、大きな障害となる。


自己奉仕バイアス


・自己奉仕バイアスを持つ人間は、不確実性による成功に対しても自分の貢献度を過大に評価し、その特殊な局面でたまたまうまくいった自分のやり方を絶対視してしまうようになる。また、失敗の連鎖に見舞われたときには、「今はたまたま運が悪いだけだ」と考えるだけで、自分のやり方を変えようとは思わず、失敗の連鎖から抜けられなくなってしまう。


・過去に大きな成功体験を持ち、周囲からも一目置かれているような人ほど陥りやすい罠だといえる。


自己正当化の欲求


・人はいったん何かを判断したり、行動したりすると、「そうしていなかった場合には決して抱くことがなかったはずの理屈」に囚われてしまう。だから、自分が当事者でない場合にはモノゴトを客観的に、合理的に見ることができたとしても、自分が当事者になって判断をしたり行動したりするようになると、とたんに客観性や合理性を失うことになる。

 

同調


・予想外の危機に直面した組織の内部ではとくに同調が起きやすいと考えられていて、そのような場合、予想外のデキゴトに対する個人の心理的バイアスが増幅されて、組織としての意思決定が間違った方向へと吹き寄せられる。そのような集団の内部では、多角的なモノの見方が排除され、その結果、予想外のデキゴトに対する柔軟な対応能力が奪われてしまう。


・予想外の突発的な状況に立たされたりして、心理的なゆとりや冷静さを失ったときには、長い進化の歴史によって積み重ねられた本能的な反応に頼ろうとして、さまざまな心理バイアスが強く出てくるようになる。

 


人はなぜ不確実性にうまく対処できないのか


不確実性の過小評価


・株式市場にたびたびクラッシュが起きるのは、人々がそのような事態が起きる可能性を過小評価しているからこそである。つまり、 人々による不確実性の過小評価自体が、より大きな不確実性をもたらす要因となる。


予測への過度の依存


・人はとにかく予測を信じたがる。実際には、予測の多くは外れるのだが、そうしたことは人の記憶に残らず、次もまた相も変わらず新しい予測に飛びつく。


・さまざまな予測の中で、 その時点での分析の鋭さや正確さを評価するのではなく、結果が出た後にその結果に最も近かった予測を後付けで持ち上げる。世の中で行われているのはそういうこと。


不確実性の効果を過小評価する人間という生き物は、その裏返しとして、予測の力を過大評価する。


・当然のこととして、努力を傾けることで予測の精度が上がる事柄(すでに起きた未来)については、できるだけその精度を高められるようにするべき。


・予測ができない不確実性の部分に対しても予測で対処しようと考えることによって、かえって不確実性にうまく対処できなくなってしまう。


気合で乗り切ろうとする


・気合だけですべての局面を乗り切れるわけではない。ときには、自分にとって最悪な状況となることを考えてみることも必要である。 ネガティブなことをあえて想定しておくことで、破滅を避けることができる場合もある。


・気合に頼る精神論は、戦略の機動的な修正を困難にし、的外れの方向に努力を重ねる結果につながってしまう。

 


失敗のパターン1:成功体験と自信過剰

成功は失敗のもと


・思わぬ環境の変化に遭遇したときに、 過去に成功した者ほど、自分たちのやり方を過信し、新しい環境に適応するのが遅れる。強い企業ほど、その強さゆえに不確実性への意識が薄れ、過去の強みが現在の弱みに変わっていく。


成功ではなく、失敗から学ぶ

 


失敗のパターン2:サンクコストと自己正当化  

過去に縛られる


・計画には、 計画どおりに事を運ぶことそのものが目的化するという性質が備わっている。そのために、途中で起きた予想外のデキゴトを無視したり、達成が難しくなった目標に必要以上にこだわったりして、かえって傷口を広げてしまうことになりがち。

 

時価」で考える


・完璧な計画を作ろうとして緻密なものを作れば作るほど、不確実性のせいで現実との齟齬は時間の経過とともに大きくなっていく。予想外のデキゴトが起きたときに、それに柔軟に対処していくということが前提として含まれていない限り、計画は身動きを縛るものにしかならない。


・組織の総力を傾けた大計画になればなるほど、サンクコストや自己正当化の呪縛に囚われやすくなってしまうという面も見られる。絶対に計画どおりに事を運ばなければならないということが至上命題になって、無理に無理を重ねてしまう。


・組織の本来の目的は、あるひとつの計画を計画どおりに実行することにはないはず。不確実な世界の中で、予想外のデキゴトに遭遇したとしても組織が生き残ることができるようにし、予想外のチャンスが来たときにはそれをしっかりとつかんで、長期的な成功を果たす。個々の計画は、その究極の目標を阻害するものであってはならず、そうした観点から常に見直されていくべきもの。


・1000円を下回る価格で売りさえしなければ損失は確定しないと考えることは、うまくいっていない計画を正当化することと、何も変わらない。
時価で考えるとは、株価が900円に下がった時点で、実際に100円分の損失が現実に発生したと考えること。つまり、この投資がうまくいっていないことを認識する。


・評価損失と確定した損失に本質的な違いなどなく、損失が発生したうえで、あらためてその損失を生んだ株に再投資しているのと同じことなのである。だから、この時点で考えるべきことは、「その株に今再投資をすることが本当にベストな選択なのか」ということ。


・評価損失を確定した損失にしたくないという考えに囚われていれば、その株を持ち続ける、つまり再投資し続けるしか選択肢はなくなる。だが、評価損失も現実の損失なのだと考えれば、実際にその株を売却して損失がそれ以上に拡大しないようにするか、あるいは現時点でもっと有望に思える別の株に投資先を切り替えるという判断もできるようになる。

 


失敗のパターン3:希望的観測と神頼み  

苦しいときの神頼み


・人は苦しい状況になればなるほど、リスクに鈍感になり、希望的観測にすがるようになる。だが、そうした希望的観測は、事態の解決には何の役にも立たないばかりか、抜本的な対策を遅らせて、より大きな危機を招き寄せることにしかつながらない。


カサンドラの声」を聞け


・危機的な状況に陥り、報われることのない希望的観測にすがるより他になくなる事態を避けるためには、状況を自力でコントロールできるうちに、さらに悪いことが起きることを想定してリスクの元を絶つしかない。


・危機が深刻化する前に抜本的な対策を打つというのは、実際にはとても難しいことである。 抜本的な対策には痛みが伴うため、「今はまだそこまでやる必要はない」という意見が必ず出てくる からだ。だが、誰もが事態の深刻さを認識できるようになったときには、すでに打つ手がなくなってしまっている可能性が高い。


・人や組織はいつも安全な道を渡れるとは限らず、ときに危険を冒して勝ち目の薄い戦いをすることを余儀なくされる。そんなときにでも、最悪のシナリオを想定し、備えをしておくことはとても重要なポイント。

 


失敗のパターン4:異論の排除と意見の画一化  

集団極性化


・組織における異論の排除は、不確実性に起因する予想外のデキゴトへの対処を誤らせる大きな要因となるもの。不確実性とは予期しないデキゴトが起きることであり、ときに悪いデキゴトが連鎖して起きる。組織の考え方が一方向に傾いていると、それとは違う方向に事態が推移したときに、柔軟な対応能力が奪われてしまう。


異なる視点の重要性


・経営者の役割は組織内の意見の統一を図ることなどではなく、十分に検討され、その結果として反対意見が付されている議案を、最終的に責任を負って判断していくこと。

 


5. 人生を長期的成功へと導く思考


予測に頼らないという新しい考え方  

予測は外れて当たり前


・多くの人が納得しやすい、つまりコンセンサスが得やすい予測はとりわけ外れやすい。これは、大勢の人が予測していたのとは違うことが起きたときに、予測を外したその大勢が慌てふためいてパニックを起こすことでその動きが増幅され、ますます予測と違う結果が招き寄せられてしまうから。
モノゴトはコンセンサスとは違う方向にこそ大きく動く性質を持っている。


予測が当たらないことが問題なのではなく、 予測できないことに予測することで対処しようという考え方がそもそも間違っていると考えるべき。


・わずかな兆しをもとに、それが予想外の大きな動きにつながるかもしれないとさまざまなシナリオを思い描き続けることこそが大切なのであり、最初に立てた特定の予測にこだわって、そのような作業を怠ることがあってはならない。これが、予測に頼ってはいけないという意味。


・未来には予測できる未来と予測できない未来があるわけだから、予測できる未来を見逃していたのなら、それは改善していく余地がある。だが、不確実性の存在を前提にするとき、それよりももっと大切なことは、予想外のデキゴトが起きたときに、いかに冷静に、いかに柔軟に対処できるかということ。


正確な予測をしようと汲々とするのではなく、むしろ自分の予測が外れることを常に想定しながら、リスクをコントロールして最悪の事態を避け、たまにやってくる大きなチャンスを逃さないように心がける。


・製品やサービスの開発において、特定のものに決め打ちをするのではなく数多くのアイデアを試し、その結果として数多くの小さな失敗をし、その中からうまくいくものを大きく伸ばしていくというやり方が有効。


勝率に惑わされない

 

・不確実性を前提とするとき、総得失点差と勝率は、実は直接的に結びつかない。むしろ、 勝率を引き上げることで、長期的な総得失点差が犠牲になってしまうこともある。

 

・見た目の勝率を引き上げたり、見た目のリスクを抑えたりすることは、実はちょっとしたテクニックでいくらでも簡単にできる。だが、それだけで期待値を引き上げることはできない。 リスクというものは、利益の可能性を放棄してその元を絶たない限り、見た目を変えることはできても、魔法のように消してしまうことはできない のだ。これは、一般の人があまりよく理解していない金融理論の「大原則」。


・大きな損失を被る可能性と引き換えにすれば、勝率などいくらでも操作をすることができる。だが、それは決して長期的な観点で成功をもたらすものとはならない。

 


短期的な結果に振り回されない  

正しいやり方の効果は長期的にしか現れない


・不確実性のおかげで、短期的には、間違ったやり方でも成功することがあり、また正しいやり方でもうまくいかないことがある。
原因と結果が直接的に結びつかない不確実性のもとでは、正しいやり方の効果は長期的にしか現れない。


・人はどちらかというと、華々しい短期的な成功に注目し、称賛しがちである。その一方で、その華々しい成功を成し遂げた者が、その後も成功を続けていけるかどうかにはあまり関心を払わない。


・短期的な成功は、大胆な行動から生まれる。大胆に行動し、それが運良くはまれば大きな成果が得られる。その成果が華々しいものであればあるほど、成功者はカリスマ視される。だから、そのような成功を目指すならば、できるだけ大胆に行動し、あとは運任せにすればいい。運良く自分に都合のいい方向に働く自己増幅的フィードバックが起き、それに乗ることができれば、予期しない大成功を収めることも可能となる。
だが、その華々しい成功を長期間維持するのは至難の業だ。そのような成功をもたらした自己増幅的フィードバックは、いつか逆流するから。


小さな失敗を許容する


・長い時間軸の中で持続的な成功を得るために第一に必要となるのは、たとえ予想外の悪いデキゴトが起きたとしても、二度と立ち直れなくなるような破滅的な損害を何としても避けること。


・何らかの予測、つまりひとつの仮説に基づいて始めたことがうまくいかないときには、すぐに予測の見直しを行い、必要に応じて今行っていることを取りやめたり、別の方法に変えたりしなければならない。もしそれが、短期的な成果に結びつかないものであっても、あるいは勝率を引き下げることになったとしても、失敗が大きく致命的なものになる前に、事態を自力でコントロールできるうちに、失敗を認めて出直す必要がある。つまり、 大きな失敗を避けるためには、小さな失敗を許容しなくてはならない。


・損失を早期に確定させることを心がけると、実際には勝率が否応なしに下がってしまう。したがって、さまざまな投資の教科書で早期の損失確定の重要性がいくら説かれていても、一回一回の勝ち負けにこだわる人は、この鉄則をなかなか守ることができない。そして、いつの日か予期しない大きな損失を出してしまって、投資の世界から退場を余儀なくされる。


・損失を早期に確定させることを徹底しようと思えば、必然的に勝率の低下を甘受しなければならない。致命的な失敗を避けるためには、数多くの小さな失敗を受け入れる必要がある。
この点こそが、長期間にわたって投資を続けて大きな成果を残せる人と、そうはならない人を隔てる決定的な分かれ道。


・勝率へのこだわりを捨てて、数多くの小さな失敗を許容することによって、致命傷を負うことなく、やがて大きなチャンスが巡ってくるのを待つことができる。大きなチャンスとは、自分にとって良い方向に自己増幅的フィードバックが働く局面だ。もちろん、それがいつ、どのくらいの大きさでもたらされるかはわからない。だが、その予期せざる大きなチャンスを存分に活かせるかどうかが、次の関門となる。

 


・自己増幅的フィードバックは、悪いことが連鎖して致命的な事態に至らしめようとする恐ろしい現象であると同時に、良いことが連鎖して予想をはるかに超える成果をもたらしてくれる要因ともなる。だから、悪い方向に働く自己増幅的フィードバックの負の連鎖からいかに素早く抜け出し、良い方向に働く自己増幅的フィードバックからいかに大きな成果を上げられるかが、長期的な成果を左右する決定的な要因となる。


・不確実性の存在を前提とし、長期的な成功を目標にするならば、単に目先の成功を目指すのとは戦略の立て方がおのずと異なってくる。不確実性を忌み嫌ったり、無視したりするのではなく、世界が不確実性に満ちていることを知ることの重要性は、そこにこそある。


不確実性への対処に終わりはない


・不確実性の存在とその効果については、「わかっているから、その話はもういい」というようなことは決してないのである。どんなにわかった気になったとしても、いつまでも集中力を維持できるかどうかは別の話だ。そして、少しでも気が緩んだ瞬間に「罠」にはまってしまう。


・決して惰性に流されることなく、不確実性に対する感受性と柔軟性を維持して意思決定をしていくことが、個人にとっても、企業などの組織にとっても、長期的な成功に不可欠な要素となる。


リスク管理の本質は、専門的で技術的な部分にあるのではない。

不確実性にいかに対処するかということこそが、その本質。


・不確実性に備えることは、特殊な機能などでは決してない。 すべての意思決定者がわきまえておかなければならない意思決定の本質そのもの。


不確実性は、不確実なものであるがゆえに、完全に克服することなどできない。それでも、いたずらに忌避したり、軽視したりすれば、かえって牙をむいて襲いかかってくる。不確実性とは、何とかうまく付き合っていくしかないのだ。そして、それができたときにはじめて、長期的な成功への道が開ける。

 

 

 

以上。これらの知識を活かして、来る不確実な物事とうまく付き合っていけるようなマインドセットを持ってみてはいかがだろうか。

 

 

 

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