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Article Memories vol.9: 週刊東洋経済 1/23号:製造立国の岐路

Theme: 金融・経済・政治

Time: 約20分

Difficulty: 

 

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週刊東洋経済 2021年1月23日号 | 雑誌紹介 | dマガジン

 

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経済を見る眼 

「Go To」の何が問題だったか 

 

・コロナ禍の経済的影響は、次のような過去にない特徴を持っている。

1つは、通常の経済活動が突然、取引当事者以外へ損失を与える「外部不経済」を持つようになったことだ。

2つ目は、ショックが特定の業界に集中することだ。

3つ目は、これらの外部不経済と経済的打撃が時間限定的なことだ。

つまり政府は、時間限定的な外部不経済と特定業界への打撃にどう対応するかが問われている。

 

・Go To キャンペーンはある意味でうまく工夫されていた。効果は打撃を受けた分野だけに及ぶものだし(分野限定的)、不要になったらキャンペーンをやめることができるからだ(時間限定的)。

 

・だが実施してみると、次の難点が明らかになった。

第1は、政策実施のタイミングだ。

実施後に感染の再拡大が起きたため、思い切ってキャンペーンを展開できなかった。タイミングが早すぎたといわざるをえない。

第2は、政策のアナウンスメント効果である。

Go To キャンペーンが始まったとき、多くの国民は「政府が奨励するのだから、今後は積極的に旅行や外食をすべきなのだろう」と受け止めた可能性がある。これは感染の収束を難しくさせたかもしれない。今後の政策展開に当たっては、国民に正しいメッセージが伝わるよう、よほど注意すべきである。

第3は、政策手段の割り当てである。今回は、生産者の所得を補填するために、関連需要を拡大するという政策手段を割り当てた。しかし、旅行、外食などの消費者行動には外部不経済があるのだから、むしろこれらの需要は抑制するのが正しい。

 

最も理にかなっていると思うのは、旅行や外食消費に課税し、その税収で業者の所得を直接補填することだ。誰もが「こんなときの増税には賛成できない」と考え、実現は難しいとすれば、せめて、Go To キャンペーンの予算を業者の所得補填に回すべきだったのではないか。
 

・コロナ禍は未経験の事態ゆえ、試行錯誤の政策とならざるをえない。しかしそのコストと効果を評価し、今後に生かすことが必要だ。

 

 

ニュースの核心 

株高の裏にある格差の是正はできるか 

 

・国際企業による租税回避地の活発な利用が、欧州や日本にも「法人税の引き下げ競争」という形で波及したのは周知のとおり。安倍政権下でも法人税減税が行われた。企業の誘致ないしは引き留めのためのいわゆる「底辺への競争」だ。

 

・基本に戻れば、貯蓄性向の高い富裕層よりも消費性向の高い低所得層に再分配したほうが経済にはプラス。だが、優遇された富裕層や大企業が投資を拡大すればその恩恵が低所得層にも及ぶ、というトリクルダウン論がまかり通ってきた。実際は、投資は外へ逃げ、製造業より金融業、ITが隆盛となったことで投資や雇用への効果も低かった。歪んだ税率により富裕層は雪だるま式に富を増やし、低所得層はますます貧しくなった。
 これは、先進各国の金融緩和の長期化や財政膨張にもつながっている。債務を抱える低所得層が破綻しないように、「完全雇用を実現するために」という名目で、低い金利を維持する金融緩和が続けられ、財政出動が繰り返される。だが、これは結局、債権者、資本の所有者である富裕層や大企業の富をさらに膨張させる。

 

分配構造の歪みによって、r(資本収益率)を、g(自然利子率)、すなわち潜在成長率が下回ってきたことが、株価上昇の構造的な要因の1つ。つまり、格差拡大と長期的な株価の上昇はセットということだ。実体経済と株価の乖離の原因でもある。

 

・バイデン氏は租税回避に対する懲罰税や収益・雇用を国外から国内に引き戻す税制改革を公約している。ハードルは高いが、EU(欧州連合)に歩み寄りデジタル課税にも合意すれば、国際的な課税潮流に大いなる転換が起きうる。
 ただ、巨額の環境・インフラ投資や、所得分配の歪みを糊塗する低所得層へのばらまきは、賛同を得やすい一方、富裕層への課税は難易度が高い。既得権層によるロビー活動などの政治的圧力、さらには、株価に悪影響を及ぼすとの批判が強く、困難を極めるだろう。

 

 

HSBCが宣言、「サステナブル金融」の時代

 

・ESG投資の分野で、20年近くの実績を積み上げてきたHSBC。そのノウハウを生かして20年11月、個人投資家向けに、国内初となるESG要素を取り入れた米国株式のインデックスファンドを設定した。

 

・ESG投資をすることで、個人が企業や各国政府に対して、より直接的な影響を及ぼすことができる。

長期にわたってESGに熱心な企業を支援できるという観点からも、高い成長を続ける米国株式と、低コストで運用できるインデックスファンドの組み合わせが強力であることは言うまでもない。

 

・投資を通じ、資本の力でESGを導くことが、地球環境の持続可能性を確保することにつながる。

 

 

ニュース最前線

03 トランプ大統領退任でも残るアメリカ政治の「分断」 

 

ジョージア州で行われた連邦上院の決選投票では民主党が2議席とも獲得。上院で主導権を握ることになり、大統領と上下両院を民主党が制する「トリプルブルー」が実現した。

 

・騒動はトランプ氏の“虚言”を基に行われた。同氏は20年の大統領選は「不正だ」と根拠もなく主張。権力にしがみつこうとする同氏にあおられた極右集団や白人至上主義者、「Qアノン」と呼ばれる陰謀論者たちが中心となって引き起こしたとみられる。

 

共和党内でトランプ派と主流派の分裂が深まる気配だ。

 

トリプルブルーはバイデン新政権にとって幸先のいいニュースだ。上下両院で多数党が異なる「ねじれ議会」と比べ、公約を実現しやすい。上院を制したことで左派系の政権幹部を登用しやすくなった。

予算の面でも、大型の追加経済対策や4年間で2兆ドルの気候変動対策、7000億ドルの製造業強化策のほか、それらを実現する財源として企業・富裕層増税の可能性が高まる。財政調整法を使えば、議事進行妨害を回避して過半数で可決することも可能だ。

 

トリプルブルーの報を受け、株式市場は高値を更新したが、先行きはリスクをはらむ。

「コロナ禍もあって増税には議会の抵抗が強く、当面は歳出増が先行し、財政赤字は一段と悪化する」と読む。景気回復期待もあって米国の長期金利は上昇。FRB連邦準備制度理事会)が金利上昇を抑制すれば、「ドル安やインフレの圧力が蓄積する可能性が高まる」。
 分断を深める米国の政治経済情勢が波乱含みであることに変わりはない。

 

 

フォーカス政治 

失敗しか生まない「自民型」政治主導 

 

迷走の原因の1つはまさに首相とスタッフの問題だが、突き詰めれば「政治主導」の仕組みに埋め込まれた欠陥である。
 そしてもう1つは、新型コロナウイルス感染症が、これまで日本の政治が取り組んできた政策課題とは大きく異なり、長期にわたって危機が持続し、難易度が極めて高いという点にある。
 

・では、政治主導の欠陥から見てみたい。民主党政権が本格的に導入した政治主導と「脱官僚」の意思決定では、さまざまに目配りされた官僚主導の意思決定は既得権益保全であるとして廃された。ここでの問題は、官僚主導の意思決定は多くの場合、当代の定評ある専門家が諮問機関で意見を表明するという手続きと一体であり、これも同時に排除されたことである。政治主導は結果として、バランスの取れた専門家を遠ざけた。代わって政権に入り込む専門家とは、政治にとって「都合のよい」意見を言う専門家であり、ほとんどの場合、そのまま政策に反映させればバランスを失しかねない意見を言う人物である。こうして、官僚主導を排した政治主導は、恣意的な専門知を動員する結果を招いた。

 

専門知を排すれば、政策決定は歪む。それをしのぐために、安倍政権も現政権も、急場しのぎで各省を酷使した。そもそも内閣人事局により幹部人事を官邸が掌握したことで、官邸スタッフによる各省への指示が強力に効いた。何か問題が起これば、官邸から各省へ直接指示が飛び、無理やりにでも、とりあえずの対処策を作らせた。結果として各省は、大臣の指揮監督の下で所掌事項に責任を果たす独立の単位としての省ではなくなり、官邸の事務局と化していった。そこでは、独自にいくつかの方向性を定めて専門家と意見を交換しながら代替選択肢を用意する余地がない。言われたままに作業をするという意味での「忖度」しか働かないのである。

 

持続する危機の中、より経済活動を刺激するか、感染拡大を防ぐために行動制限をかけるか、政権はつねに機動的に判断する必要がある。経済政策であれ、感染症対策であれ、複数の代替選択肢を用意していなければならない。当面の官邸の方針とは異なり、多角的に検討されたものであることが、危機では望ましいのである。政治主導の政策決定の前提は、洞察力のあるリーダーと、これを支える有能なスタッフである。ところが、前政権末期や現政権のように、首相と官邸スタッフの視野が狭く、経済活動優先と東京五輪開催に固執し続ける場合、感染対策を強化する選択肢を官僚が用意するのは官邸に刃向かうことでもあり、現状ではまず無理である。だが、それを官邸が積極的に奨励しないと、今回のように感染爆発を前に手をこまねくこととなる。

 

現在の危機に対して、安倍政権以降の「自民党型」の政治主導はもはや失敗しか生まないであろう。官僚主導とバランスの取れた専門知を生かす謙虚さなしには、国民のいら立ちを鎮め、感染拡大を抑えることはできない。これまでの政治主導をどう諦めるか。それが、危機に対応できる自公政権の課題なのである。

 

 

グローバル・アイ 

政策がつくる「未来の姿」 前例主義はなぜ問題か 

 

各国政府が財政を拡張し、未曽有の規模で政策介入を進める中、政策決定のあり方を突き詰めて考える重要性は増している。これは政策の長期的悪影響を回避するうえでも欠かせない作業だ。その意味で、英財務省が経済の変革に向けて新たな政策決定指針を打ち出したことは歓迎に値する。他国も見習うべきだろう。

 

多くの公共政策機関がいまだに費用対効果分析という静的な政策決定手法に過度に依存している。しかし、イノベーションや経済の変容を理解・予測し、促進していくには、こうした手法は適さない。
 費用対効果分析は英国で地域格差の拡大につながったと批判されている。費用対効果の評価軸では、生産性の高い地域に投資を行ったほうが効果的という話になりがちだ。その結果、新規投資の大半は豊かな地域に集中し、豊かな地域はますます豊かとなる。このように格差を増幅し、固定化する連鎖が続けば、持てる者と持たざる者との溝も必然的に深まっていく。現在主流となっている経済政策枠組みは、気候変動対策の妨げにもなっている。静的な費用対効果分析に従うなら、石炭をガスに置き換えるのが二酸化炭素排出を減らす最も安上がりな方法ということになる。だが、こうした分析からは、再生可能エネルギーがいずれ最も安価な発電源に進化するというダイナミックな技術革新の視点がすっぽりと抜け落ちている。

 

財務省の新指針が持つ革新性は経済を動的に変化し続ける複雑系のシステムと位置づけた点にある。社会的に好ましい変化を生み出すために方向づけを与えるのが政府、という立場である。
 

・方向性の選択は重要だ。なぜなら、ちょっとしたことが長期的には重大な帰結をもたらす場合があるからである。

 

効果的な政策決定を行うには、経済の動態力学に理解を深め、ある変化が別の変化の呼び水となる波及効果を考慮する必要がある。

 

費用対効果の伝統的な分析枠組みは「リスク対機会分析」に拡張されてしかるべきだろう。リスク対機会分析では変化のプロセス管理が肝になる。複雑に変化する現実の経済においては、こうした政策決定手法のほうが効果的だし、世界の繁栄、不平等の改善、持続可能性の向上にも資するはずだ。

 

 

グローバル・アイ INSIDE USA 

米議会で急増する女性議員 原動力は反トランピズム

 

女性議員増加の背景にあるのが「トランプ・エフェクト(効果)」だ。女性は男性より差別に敏感だといわれるが、トランプ氏の数々のセクハラ疑惑や人種差別、障害者への侮蔑、移民弾圧などへの反発が女性を行動へと駆り立てている可能性が高い。

 

トランピズムが逆ばねのように作用し、女性パワーが増す米国。図らずも、「トランプ効果」が米政界の「ボーイズクラブ(男社会)」に風穴を開けたようだ。

 

 

マネー潮流 

米ドルが強くなるとき、弱くなるとき 

 

・米ドルは名目実効レート(多通貨間での実力を測る指標)でみると、昨年5月半ば以降下落基調が続き、10%程度下落している。昨年1年間を通じて主要10通貨中、最も弱い通貨となった。
 

・米ドル全体、つまり名目実効レートでみた米ドルの動き方には一定のパターンがある。

 

米ドルが上昇するのは、次の2つの条件のうちどちらかが当てはまるときだ。
 まず、世界的に株価が大きく下落するような、いわゆるリスクオフ(リスク回避)の環境にあるとき。世界経済が力強い成長を続け、投資が活発に行われるようなときには、米ドルから新興国などに投資資金が流れるため米ドルは売られる。だが、環境が一変して世界的に株価が下落し、先行き不透明感からリスク回避姿勢が強まると、投資資金の回収とともに米ドルは買い戻される。その際、円のほうがより買い戻されることもあるので、円高米ドル安になることが多く、円との比較ではわかりづらくなるが、その他の通貨に対しては米ドルが上昇している。
 米ドルが強くなるもう1つの条件は、さらに2つの条件から成る。1つ目が米国経済の独り勝ち、2つ目がFRB米連邦準備制度理事会)への利上げ期待がその他の中央銀行への利上げ期待よりも強いことだ。

 

世界経済が好調なときは通常、前述のように米ドルから投資資金が他国に流れるため米ドルは売られるが、米国経済がその他の国に比して突出して強く、FRBへの利上げ期待が目立って強まると、米ドルは買われる傾向がある。このとき、円は弱い通貨となっているので、米ドル円相場は比較的力強く上昇し円安米ドル高となることが多い。

 

米国経済の独り勝ち度合いを測るのはなかなか難しいが、米国製造業PMI(購買担当者景気指数)からグローバル製造業PMIの数字を引いた値でみると、4ポイント前後を上回ると米ドルが買われる傾向がある。現状この数値は3.3ポイントとなっており、米国経済の他国に先んじての回復がもう少し強まれば、米ドルの下落トレンドが止まり反転上昇を始めるための2つの条件のうち1つを満たすことになる。
 もっとも、米ドル上昇のもう1つの条件である、FRBへの利上げ期待がとくに強いという点をクリアするのはまだ難しそうだ。先に示した米国経済の独り勝ちで米ドルが上昇した期間は、いずれもFRB政策金利の変更期待を反映すると考えられる2年金利も上昇していた。現在、FRBの金融政策に関しては、証券購入の縮小期待もあって長期金利が上昇しているが、長期金利の上昇だけでは米ドルは買われない。この場合、為替リスクをヘッジして米債投資をしても比較的大きなリターンを得られるため、米ドルの支えにはならないのだ。この点に鑑みると、昨年5月からの米ドルの下落トレンドが終了し反発局面に入るのは、まだ難しいだろう。

 

 

袋小路の三菱重工 

キャッシュフロー重視へ転換 巨額投資支えた財務基盤

 

三菱重工のような重厚長大型の企業は巨大な設備を多く持ち、製品リードタイムも長い。さらに多数の事業会社と生産拠点が複雑に入り乱れており、もともと資産の効率性はよくない。そこで製造拠点ごとに分かれていた調達を一本化してコスト削減を実行。業務プロセスなどを細かく見直すことで、仕入れから販売に伴う現金回収までに必要な日数(キャッシュ・コンバージョン・サイクル、CCC)や運転資本を圧縮してきた。

 

問題意識の根底にあったのが、三菱重工に限らず日本企業に多く見られる、売上高や純利益などの指標を過度に重視する経営戦略からの脱却だ。投資に回す資金の捻出と稼ぐ力を見るために、資産構成とキャッシュフローを重視する経営へと変革。「基礎となるのは総資産だ。企業経営の根幹は、総資産をうまく活用して、事業規模や企業価値を最大化することだ」という。

 

ただ運転資本の圧縮は限界に来ている。今後は本業の利益からキャッシュフローを生み出さなければならない。「今までは総資産の大きさが問題だったが、今後は利益を生む質の高い資産構成への入れ替えが必要」という。

 

会社の健全な財務ポジションとして打ち出したのが、独自の経営指標「トリプルワンプロポーション」だ。総資産売上高株式時価総額の3つの額がそれぞれ等しくなることを目指す。これが達成されると、バランスの取れた経営が達成されるというものだ。売り上げ規模に対して過大だった総資産は圧縮に成功した。この3つの数値のうち、極めて低い水準にある時価総額を上げるためには、市場が期待する利益水準を安定的に達成する経営が求められる。
 そうした体制をつくるためには事業ポートフォリオの入れ替えも視野に入る。今度こそ失敗のできない稼ぎ頭の探索が必要になる。

 

 

スペシャルインタビュー 

「バイデン政権でも米中対立は止まらない」 

国際情勢ストラテジスト ジョージ・フリードマン

 

米国は不安定な移行期にあると主張した。約80年に一度の「制度的サイクル」と約50年に一度の「社会経済的サイクル」の大転換期が2020年代に訪れるとみる。トランプ大統領の登場は現周期の終焉の始まりを意味し、米国史における構造的変化の予兆だという。

 

南北戦争当時は今より分断されていたが、トランプの下で分断が深まったのは確かだ。この分断は、(80年に始まった)レーガン周期の終焉を示唆している。同時代にはテックブームが起こり、カリフォルニアや東海岸の人々が富む一方で、自動車や鉄鋼などの工業労働者階級は荒廃した。そこにトランプが現れ、工業労働者階級を結集し、支配階級に挑戦状を突きつけ、対立が生じた。レーガン周期には社会経済的対立に伴い、文化的対立も生まれた。中西部の労働者層は保守的だ。(知識に裏付けられた技能者の)テクノロジストと違い、人工妊娠中絶などに反対し、信仰心があつい。お互いに基本的な米国人像が違うため、感情的な対立が生じる。

 

バイデンという標準的な大統領の下で政治的には落ち着くが、社会経済的緊張は高まり続ける。ニクソン後のフォード、カーター両政権下でも危機は収まらず、政治構造の激変とともにレーガン周期に移行したのと同じだ。24年の次期大統領選挙後、最終的な危機が訪れ、次のサイクルが始まる。米国は苦渋の移行期にある。「米国はもう終わりだ」と揶揄されるが、70年代も同様だった。「日本が世界を乗っ取る」といわれたが、米国は復活した。

 

中東から距離を置き、ロシアと中国に強硬姿勢で臨むという政策は、オバマが始めたものだ。彼はトランプのように対中関税を引き上げはしなかったが、為替(操作)問題で中国と対峙した。バイデンもオバマ路線を踏襲するだろう。中国への敵意が米国内で増しているため、対中政策転換は不可能だ。世界最大の輸出国である中国は、世界最大の輸入国である米国を怒らせたくなかっただろうが、中国にとって国内経済の開放は難しいため、貿易摩擦をめぐる米中の立場は変わらない。中国は米新政権に経済開放をちらつかせるだろうが、実際には無理だ。

 

中国がTPPに参加するには自国経済を開放し、競争にさらす必要がある。だが中国は、貿易摩擦で米国市場を失いかけているため、国内市場を守らねばならず、加盟国と同じ条件で中国市場を競争にさらすわけにはいかない。構造的に自由貿易圏への参加は無理だ。米国にとっても、参加のメリットは明確でない。専門家も賛否両論だ。バイデンがリスクを冒してまでTPP問題に首を突っ込むとは思えない。国内政策に政治的資本をつぎ込む必要があるからだ。

 

中ロの動向は米国の関心事だが、米国は世界に対し、もう責任を負いたいとは思っていない。リスクを共有してもらいたいのだ。バイデン政権下でも、状況が様変わりすることはないだろう。現在の周期・システムが完全に機能しなくなるまで、危機は続く。

 

 

経済学者が読み解く現代社会のリアル 

経済学で起業してみる 目に見える「変化」の拠点

 

【要点メモ】
1 経済学者の社会への影響力が失われ、経済学が「自然科学もどき」に
2 突破口は事業・起業を通じた経済や市場の創造
3 「半熟仮想」を拠点にサイバーエージェントやZOZOと共同事業

 

 没落の兆候が、書店に並ぶ経済学の教科書のスタイルだ。どこかの誰かがつくった「経済」がそこにあり、それを分析するのが私たちという構図。いわば理学(自然科学)もどきとしての経済学だ。しかし、不変の法則が多くある自然と違い、経済は法則自体が変わる

 

経済の変幻自在さに目を向けるなら、立ち上がるのは「次の変化をどう生み出すか」「経済や市場をどうつくるか」という問いだ。変化をつくる工学としての経済学、経済や市場を構想し設計し製作する経済学の役割が浮かび上がってくる。

 

半熟仮想の事業は、以下の3つの段階で進めている。

1つ目は、日本発の突端的なR&D(研究開発)を行い、それを世界に向け開放していくことだ。新たな事業や政策をゼロベースで設計し、導入後の新世界で何が起きるかを予測する技術の開発と実践を進めている。

2つ目は、開発した技術を用いた、日本の伝統産業やアナログ産業の再興だ。これまで、データとアルゴリズムの恩恵はウェブ産業と製造業など経済のごく一部に集中しすぎてきた。この現状を破り、データ技術の果実を広い社会に還流させたい。どんな食品・教育を開発し、いつ誰にどんな値段で提供するかの意思決定を、あたかもウェブサービスをデザインするかのように、データを基に行い、展開することが狙いだ。衣食住や小売り、教育、医療といった課題への取り組みは、自然と社会事業・政策的色合いを帯びてくる。営利企業、非営利組織、公的機関を巻き込んで、幅広い社会・政策課題の解決に貢献したい。

3つ目、最終段階は、22世紀に向けた社会構想である。

データやアルゴリズムは政治や経済、宗教、メディアといった社会の根っこにある価値・制度基盤を変えていく。数百年前の常識と技術で構築されレガシー化しているように見える政治(例えば選挙・立法・行政過程のデザイン)や経済(例えば資本市場の仕組み)をどう今世紀風に更新できるか。半熟仮想は、その構想と実験を発表し始めている。

 

 

リーダーのためのDX(デジタルトランスフォーメーション)超入門 

ブロックチェーン」の威力を見逃すな

 

【Point】
1 暗号資産「ビットコイン」が急騰、今年前半には米取引所大手が上場へ
2 暗号資産は取引記録を「マイニング」という解読競争で認証し信用を担保
3 ブロックチェーンは通貨だけでなく、さまざまな商取引での認証にも有用

 

昨年12月から急上昇したビットコイン相場は、年明けに一時400万円を突破し過去最高値をつけた。相場は水物であるため注意は必要だが、機関投資家も参入し始めており、暗号資産への注目度は高まるばかりだ。

 

今年前半には米暗号資産取引所最大手のコインベースが上場を計画している。主要な米取引所として初の上場となる。100カ国以上で利用されており、すでに日本法人も設立されている。上場に踏み切るのは、取引手数料などで安定的に金融収益を稼げるようになったことが大きい。上場で調達した資金を活用し、暗号資産取引のエコシステム拡大を目指す。取引所は需要と供給を引き合わせる役割を担うので、規模の経済が働く。規模が大きいほど流動性が高まり、ビッド(買値)とオファー(売値)の差が縮まる。つまり投資家が効率的に売買できるため、規模が大きければ取引所として独り勝ちできる

 

ビットコインを取引するうえで、取引記録を「ブロック」に見立て、「マイニング」という暗号を解く作業でチェーンのようにつないでいった。これをブロックチェーンと名付けた。

 

取引履歴を、ブロックチェーンの参加者同士がマイニングの競争で正しい取引だと認証する。この競争では報奨金がもらえる。暗号を解くという競争原理によって正しい取引しか残らないような仕組みが整備されているのだ。

中央銀行は本当に必要なのだろうか。通貨の発行自体はもはやデジタルでできる。将来的には、本来の役割である物価の安定についても、データを活用し人工知能などで実現できるかもしれない。ブロックチェーン技術とデジタル通貨は、互いの長所を活用すれば十分に両立が可能だ。暗号資産が今後デジタル通貨として普及し、当たり前のように利用される可能性がある。

 

一方で暗号資産には価格が変動するという短所がある。ビットコインは発行量が決められており、金のように希少価値があるコモディティー(商品)として取引されている。この解決策が、「ステーブルコイン」という暗号資産の形式だ。1コイン=1ドルというように価格を固定できる。米フェイスブックが1月中にも発行するとされている通貨「ディエム(旧リブラ)」はステーブルコインになるであろうといわれている。

 

ブロックチェーンを使ったからといって、すぐに儲かるわけではない。ただアンテナを張っていないと、いつの間にかあなたの会社の競合がブロックチェーンを使いこなし、先行してしまうかもしれない。まずは小さなことから活用を検討してみよう。

 

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