BobY2  

Platform of My Learning

Book Memories vol.10: 敗者のゲーム 原著第6版

Theme: 金融

Time: 約30分

Difficulty: 

 

 

f:id:BobY2official:20201004172057j:image

 

 今日では投資手法の研究が進み、情報伝達の迅速化が進んだことで、市場が効率化され、市場はほとんどの投資家の投資判断の総和とも言えるようになっている。つまり、市場がプロによって支配されるようになった今、市場の動きはまさしくプロの動きの総和を示すようになっている。

そのような現状において、運用機関が市場に勝とうとするのは愚かであり、平均以上のリターンを担う平均的投資家は平均以下のリターンしか得られず、平均リターンを担う投資家こそが長期的には平均的投資家を大きく上回るのだ。

 

 そこで、投資において勝つために、そして勝ち続けるために、市場を忠実に反映する、つまり市場に負けないインデックス・ファンドへの投資を考えるべきであると言える。 単純で、透明性が高く、低コストで、課税上も有利なインデックス・ファンドを通じて市場全体に投資することで、かなりのリターンをあげられる

もちろん、インデックス・ファンドの議論は最も効率的な市場でより当てはまるものであり、発展途上国などの効率性の落ちる市場においては、逆にアクティブ運用が勝つ可能性も出てくる。しかし、日本や欧米諸国では運用機関がアクティブに動くことで市場が作られ、それをインデックスで利用し、長期的に投資を続ければ資産は増えるのにも関わらず、一発逆転を狙ってアクティブ運用をする必要はない。

基本的で単純な戦略で立ち向かうのが正しいアプローチの仕方であり、自らの真の運用目的を認識したうえで現実的な戦略を策定し、長期にわたってその戦略を堅持さえすれば、低コスト・低リスクで手間もかけずに、運用に成功することができる。

 

 長期投資の明確な目標設定に集中し、その目的を実現するために合理的かつ現実的な投資政策を選択したうえで、複利の恩恵を受けるためにその政策を、自己規律を守って、忍耐強く、しっかり貫いていくこと。市場より良い成績をあげようとするのではなく、適切な運用基本方針、つまり市場の長期的な上昇力をうまくとらえるようなポートフォリオの作成方針を策定し、かつ、それを軽々に変更しないこと。リターンのことを考えず、リスクをいかに最小限に抑えるかを考えれば、自ずと時間をかけることでリターンは上がることから、収益率をいかに管理するかではなく、マーケット・リスクをいかに管理するかであること。投資対象期間は一人の人生よりもはるかに長いから、個人の都合によってリスクを考えるのではなく、より効率的な意思決定は、100%株式に向けることであろうということ。

これらを守って資産運用を長期にわたって継続していくことが王道である。

 

 歴史に学び、科学的に証明された良い方法を選ぶことでリスクを最低限に抑えた運用が可能であるのだから、過去の運用の何十年という歴史によって得られたデータやパターンをムダにしてはならない。

 

 

 最後に。 富は、良くも悪くも力を持つ。そして莫大な富は強力な力を意味する。Warren Buffettの

「子どもに残す理想的な金額は、それで、(したいと思うことを)何でもできる額であり、何もしなくてもよい、と思わせてはいけない」

という言葉通り、大成功を収めた投資家は、自分自身の希望や意志はともかく、子どもたちに残す莫大な遺産がかえって子どもたちの価値観を歪め、彼ら自身で富を築く喜びを奪ってしまうというマイナス面も良く考える必要がある。

 

 

 今回そのようなことを学んだのは、

 

Winning The Loser's Game (邦:敗者のゲーム 原著第6版)

 

チャールズ・エリス著 鹿毛雄二訳 日本経済新聞出版

 

という本。

 

f:id:BobY2official:20201004021214p:plain

 link below ↓

 

 自分なりに大事だと思ったところをまとめたので、興味のある方は読んでいただければ、と思う。

 

  特に本を読んだ上で自分なりの解釈だったり派生させたことを書いたりしているわけではないが、一種の教科書的な感じで大事な点をさくっとまとめ、自分の知識の幅を広げていくためのアウトプットのツールとして使うことにしている。また記事の最初にVocabs欄を設け、キーワードや専門用語などを載せているので知識を効率的に広げていただきたい。読者の方々にはもし知らないことがあれば身につけていただきたいし、ただ要約しているだけなので、よくわからない点があれば自ら購入して読んでいただくなりと、自由に使っていただければと思う。

 

 

 

 

 

 

  [Vocabs]

 

ウォール街のランダム・ウォーカー:バートン・マルキール

 

ボーグルの投資:ジョン・ボーグル著

 

常識にとらわれない投資:チャールズ・エリス著

 

生存者バイアス:パフォーマンス・データは、消滅した、すなわち成績不良の、多数のファンドのデータを含まないから実際より高めに出る。

 

TIAA-CREF:全米教職員年金・保険基金

 

401(k):確定拠出型年金・非課税投資口座(NISAなど)。

 

平均への回帰:物理学や社会学における統計データ分析。

平均値より大きく離れた値が出ても、やがてまた平均値が多く出るように戻る現象。

 

投資戦略:主要業種の調査分析や経済および金利の変化、さらに新興成長株やバリュー株といった、主要株式グループの評価に基づいて検討される。

 

個別銘柄リスク:個々の証券に結びついたリスク。

 

株式グループ・リスク:特定の証券グループに共通するリスク。

 

ドル・コスト平均法:一定金額を一定期間をおいて投資する手法。

 

効率的ポートフォリオ:一定のリスクに対応したあらゆるポートフォリオの中で、最大の期待リターンをもたらすもの、また、一定の期待リターンを達成するポートフォリオの中で、リスクを最小にとどめるもの。

 

グレジャムの法則:長期より短期の成績に注目する限り、「悪貨は良貨を駆逐する」。

 

ニンジャ・ローン:収入も仕事も資産もない者に対しても、住宅価格上昇だけをあてにしてローンを貸し付ける。

 

ファンド・オブ・ファンズ:多数のファンドに投資する方式。

分散投資の保険という意味がある。ただ、その保険のコストは高い。

 

72の法則:ある利回りの下、複利で投資した場合、資産が2倍になるまでの年数との関係を示したもので、利回りと年数の積が72になるというもの。たとえば、10%なら7.2年で、3%なら24年で2倍になる。

 

 

 

 

 

 

 本文

 

第1部 資産運用でまず押さえるべきこと

 

[1. 運用は「敗者のゲーム」になった]

[2. 運用機関の本当の役割]

[3. それでも市場に勝ちたいなら]

[4. 「ミスター・マーケット」と「ミスター・バリュー」]

[5. インデックス・ファンドは投資のドリーム・チーム]

[6. 運用に付きまとう矛盾]

 

第2部 運用を少し理論的に見てみよう

 

[7.「時間」が教える投資の魅力]

[8. 収益率の特徴と中身]

[9. リスクが収益を生み出す]

[10. 効率的ポートフォリオ]

[11. なぜ運用基本方針が必要なのか]

[12. 成功する運用基本方針策定のポイント]

[13. 運用成果測定の狙い目は何か]

[14. 市場予測の難しさ]

 

第3部 個人投資家への助言

 

[15. 個人投資家にとっての課題]

[16. 投資信託、どう選ぶ]

[17. 手数料は高い!]

[18. 生涯を通じた投資プランを立てよう]

[19. 2008年の大暴落]

[20. 401(k)投資家へのアドバイス]

[21. 人生の終盤で成功するために]

[22. 資産家のためのアドバイス]

[終章.  敗者のゲームに勝つために]

 

付録A 運用機関との上手な付き合い方

付録B オリエント急行の殺人事件

付録C 推薦図書

 

※付録A、付録Cは読んでいないので割愛する。

 

 

 

序文

 

ポートフォリオには自ら責任を持ち、ウォール街の甘い囁きには気をつけろ。

 

・投資家が自ら考えるようになれば、利益相反でリターンを引き下げるような、ウォール街の様々な提案に惑わされることも少なくなり、群集心理に引きずられるような行動や、バーニー・マドフのようないかがわしい商品に誘惑されることもなくなるだろう。

 

自分自身で実行すべきこと

 

・投資判断の責任を取ることを恐れる人は多い。しかし実際には、ほとんどの投資家の投資判断の総和とも言える市場に、基本的で単純な戦略で立ち向かうのが正しいアプローチの仕方。

 

・何よりも顧客利益優先という受託者責任の考え方が薄れてきてる以上、個人投資家は自らの投資に責任を持たなければならない。

 

自分の投資を理解すること

 

・投資の世界には二種類の人間がいる。一握りのアクティブ運用のトッププロと、市場に勝てるだけの専門チームを持たない、残りの大部分のプレーヤー。

前者のメンバーは有利な投資機会を見出すために全精力を注ぎ続けなければならない。それができるのはごく少数の人たち。

 

・チャールズ・エリスは、単純で、透明性が高く、低コストで、課税上も有利なインデックス・ファンドを通じて市場全体に投資することで、かなりのリターンをあげられると強調している。

 

投資信託は長期的には市場平均に勝てない。

 

個人投資家の現実の成績は、投信よりさらに悪いというのだから驚きだ。

第一に、パフォーマンス・データは、消滅した、すなわち成績不良の、多数のファンドのデータを含まないから実際より高めに出る。

第二に、パフォーマンス・データは課税上のメリットを考慮していない。

第三に、投信を購入する際に証券会社に支払う手数料の影響がある。

 こうした様々な要素による収益への影響を考慮すると、インデックス・ファンドの優位性はかなりのものになる。

 

・2007年末時点で見ると、インデックス・ファンドは全投信市場の5%強を占めるに過ぎない。残りの95%は、価値創造に疑問のあるアクティブ運用ファンド。

 

・エリスは投資家に対して、銘柄選択に目を奪われず、資産配分戦略に集中するように忠告している。

投資リターンの90%以上は資産配分からもたらされ、銘柄選択やマーケット・タイミングの効果は副次的なもの。実際には、資産配分がリターンにもたらす影響は、おそらく100%以上と言えるだろう。銘柄選択やマーケット・タイミング効果は、全体としてしばしばマイナスとなるから。資産配分にこそ集中すべき。

 

自らのリスク許容度と選好の確認

 

・資産配分を決める際には、リスク許容度が決定的な役割を果たす。投資で成功するためには、投資家自身の固有の条件と選好に見合ったプランを立てなければならない。

 

・チャールズ・エリスも、幅広い助言を押さえつつ、株式中心のポートフォリオを推奨する。実際、随所で「若いうちは全資産を株式に投じるべきだ」と主張している。

 

・自分自身のリスク許容度や選好を十分理解できれば、値上がりした資産を買い、値下がりしたものを売るという、ありがちな過ちを犯すことなく、投資に成功することができる。

個別銘柄の選択であれ資産配分であれ、投資家には常にこうした落とし穴にはまりやすいもの。

 

運用ビジネスの問題点

 

・上げ相場では、投信会社やメディアは、腕利きファンド・マネジャーを神格化し、その投資戦略をほめそやす。投資家は銘柄選択の天才に大金を注ぎ込み、運用資産残高と運用成績は同時にピークを迎える。その後、成績悪化に見舞われる。投信会社とメディアと世論はつまづいたヒーローには目もくれない。投信会社もファンド・マネジャーの懐も潤っている。それを負担しているのは投資家なのだ。

 

 

まえがき

 

・運用の基本ルールを学び、それを実行しない限り、401(k)プランはほとんどの人にとってあまり助けにならない。

 

・自らの真の運用目的を認識したうえで現実的な戦略を策定し、長期にわたってその戦略を堅持さえすれば、低コスト・低リスクで手間もかけずに、運用に成功できる。

 

・長期投資の基本原則は、決して変わらない。実際、投資の基本原則が変わったと思われるような時こそ、その原則が最も重要で、また必要とされる時なのだ。たしかに企業も市場も経済も、時とともに移ろいゆく。だが、投資の基本原則は揺るがない。

 

 

 

第1部 資産運用でまず押さえるべきこと

 

1. 運用は「敗者のゲーム」になった

 

機関投資家の大多数が市場平均より高い成果をあげられる、という前提は正しくない。なぜなら機関投資家そのものが市場なのだから、機関投資家全体としては、自分自身に打ち勝つことはできないのだ。機関投資家は、取引所取引の95%を占める。取引所外やデリバティブではその比率はさらに高い。運用機関の数が膨大で、能力も高く、顧客のために質の高いサービスを提供するからこそ、資産運用が敗者のゲームとなったのだ。アクティブ運用の手数料などのコストや、大型取引の市場インパクトなどを差し引けば、運用機関の成績は今後とも市場平均を下回るだろう。

 

・今やアクティブな運用期間は、初めて市場に顔を出す金融機関やアマチュアと競争しているわけではない。今や、彼らは他の優秀な専門家と敗者のゲームを戦っており、そこで勝ち残る秘訣は、競争相手よりも失点をできるだけ少なくすることなのだ。要するに、プロのファンド・マネジャーがきわめて優秀であるからこそ、個々のマネジャーは彼らの総体である市場に勝つことができない。

 

個人投資家の売買相手とは、圧倒的な情報・知識・経験を備えた大機関投資家だということを忘れてはならない。

 

・新しいルールの下でゲームのカギを握るのは、コスト。

 

・市場で、他のファンド・マネジャーに勝ち続けるプロがいるとすれば、彼は他のマネジャーのミスを継続的に捉えるだけの技術と、敏速な対応力を持っているということになる。そして、他のプロより早く、そのミスに乗じて行動する。

 

・結局のところ、運用機関が市場に勝てないのであれば、市場を忠実に反映する、つまり市場に負けないインデックス・ファンドへの投資を考えるべきだ。インデックス・ファンドは、面白くもおかしくもないが、とにかく結果が出る。運用成果を測定している会社のデータによれば、インデックス・ファンドは、長期的にはほとんどのポートフォリオ・マネジャーを打ち負かしていると言える。

 

・多くの投資家にとって最も困難なのは、最適な投資政策を見出すことではなく、相場の高騰期にも暴落気においても適切な投資政策をぶれずに維持すること。

 

・どんな市場環境においても適切な投資政策を守り抜くことは、きわめて困難であるだけに、極めて重要な仕事と言える。だからこそ、投資家が適切な運用基本方針を策定、遵守していくことに意味があり、それを怠った場合のダメージは計り知れない。

 

・そもそも投資とはゼロサム・ゲーム以下の、全体としてはマイナスとなる「ネガティブサム・ゲーム」だということを強調しておきたい。売り手と買い手の損益を合計すればもちろんゼロなのだが、手数料やマーケット・インパクトなどを考慮すれば、全体としてはマイナスサムというわけだ。

つまるところ、アクティブ運用とは全体としては大幅にマイナスとなるゲームなのだ。

 

勝つ方法はある。長期投資の明確な目標設定に集中し、その目的を実現するために合理的かつ現実的な投資政策を選択したうえで、その政策を、自己規律を守って、忍耐強く、しっかり貫いていくこと。

 

 

2. 運用機関の本当の役割

 

・資産運用業は、きわめて複雑に見えるものの、本質的には二つの性格を持つ。

一つは、顧客である投資家のために最善を尽くす受託者責任。

もう一つは収益追求の事業としての側面。

 

・資産運用において最も付加価値の高い仕事は、最も容易なこと、投資の基本アドバイス

顧客の収入の変化、市場の変化、流動性の制約などのリスク許容度を確認できれば、市場の活況や暴落に惑わされず、決められた投資政策を順守していくことも可能となる。この仕事は決して簡単ではないものの、市場に勝とうとする運用よりははるかにやさしい。

 

・皮肉なことだが、運用の専門家は無意識のうちに自分自身で三つの問題を作り出している。

そのうちの二つは、彼らの積極的な活動によるもの。

もう一つは、活動の欠如に基づくもので、その結果は時とともに悪化してきている。

 

・第一の問題は、顧客に対するファンド・マネジャーの使命を「市場に勝つこと」と誤解していること。

運用期間は市場に勝てる商品をこれまで提供してこなかったし、今後も無理だろう。

個々の顧客が運用リスクの何たるかを理解し、現実的な投資目標を設定のうえ、適切な資産配分を決め、現実的な貯蓄と支出のルールを決め、そして市場高騰・暴落時に冷静さを保つうえで、専門家としてのアドバイスは貴重であろう。そうすれば投資家の長期投資を手助けし、その合理的な成果を確保することができるから。

 

・第二の問題点は、時とともにますます短期収益思考が強まってきていること。

資産増加は通常、パフォーマンスにとってプラスにならないのにもかかわらず、運用機関の経営において、ビジネス拡大志向が強すぎることは、顧客にとって望ましいものではない。

 

・第三の問題点とは、運用アドバイスの重要性を見失っていること。

投資家が自分の技術や資産状況・リスク許容度に合った投資プログラムを持って投資すれば、長期的な運用目標を達成することができる。これこそが専門家による投資助言の重要な役割。

 

 

3. それでも市場に勝ちたいなら

 

・資産運用において、リスク調整後で市場に勝つ唯一の方法は、競争相手のミスを発見し、それを利用すること。

 

・一般的にアクティブ運用機関は、次のような面において成果を競う。彼らはこれらの四つの能力のうちのいずれか、またはすべてを備えている。

①市場タイミングの選択

②個別銘柄または特定グループの選択

ポートフォリオの構成ないし戦略のタイムリーな変更

④優れた長期投資コンセプトもしくは投資哲学の開発、商品化

 

・収益率を上げる最も直接的な方法は、市場タイミングを的確につかむこと。

 

・タイミングに賭ける取引がうまくいかないことは、過去に何度も立証されてきた。現実にコストが発生し、それが増えていくから。

運用の歴史を見ると、市場が大底から回復する最初の1週間に、株式リターンのかなりの部分が獲得できることは明らかである。しかし、一般にタイミングに賭ける人々は、その時にはすでに手持ちをゼロにしてしまっているので、最もおいしい部分を手に入れることはできない。

 

・相場の動きに賭けて利益を出すのは無理な話だ。一度や二度ならともかく、何年にわたってプロを相手に勝ち続けられるはずがない。しかも市場は、投資家が気づくよりはるかに早く動いてしまうものだ。

 

・長期的に見て投資家が失敗する原因の一つは、激しい下げ相場に遭遇してパニックに陥り、最大の上げ相場に参加する機会を自ら放棄してしまうことだ。この教訓は明らかである。投資家は、「稲妻が輝く瞬間」に市場に居合わせなければならないということだ。相場のタイミングに賭ける投資は間違っており、決して考えてはいけない。

 

・収益率を向上させるための第二の方法は、将来性ある銘柄の発掘にある。

 

・収益率向上の第三の方法は、投資戦略の工夫。

 

個人投資家の場合、事前に市場に勝てるファンドを見つけることは、明らかに不可能だ。たとえば、90年代後半、主としてITへ投資していた投資家は大成功した。2000年のITバブル崩壊までは。相場は「与え、そして奪う」ものだ。今世紀初めは金融株が絶好調で、そして2008年からの金融危機へと落ち込んだ。

長い上げ相場の後に起こる大暴落の例は枚挙に暇がない。

 

・第四の収益率向上策は、市場の特定のセクターないし特定の企業・産業グループにおける長期的な超過収益を生み出す力は何かという問題を掘り下げ、そのコンセプトや論理を体系的なものに作り上げていくこと。

 

・投資コンセプトあるいは投資哲学をテストする方法は、たとえ短期的には納得のいかない運用結果を出しても、実証的裏付けに基づいて、長期的視点からその投資哲学を実践する能力を、運用機関が持っているかどうかをチェックすることだ。

 

・明らかに言えるのは、超長期的にわたって通用する投資哲学など、ほとんど発見されなかったということ。おそらくその原因は、自由な資本市場においては、比較優位を確立する機会を得たとしても、それを長期間にわたって持続させるのはほぼ不可能だということ。

 

・アクティブ運用のこれらの四つの形態は、いずれも「他人の失敗の上に成り立つ」という基本的性格を持っている。個別銘柄であれ、特定の株式グループであれ、アクティブ投資家が収益機会を得る唯一の方法は、見落としや過失によってプロの競争相手のコンセンサス予想が誤った時である。

 

・個別銘柄や業種について、株価とその潜在的価値の関係を分析する競争相手はあまりに多く、あらゆる情報は瞬時に広がる。こうした中で、個別銘柄や株式グループから、競争相手が見落としたものを見つけ出し、利用する機会は、あまりありそうもない。

 

・長期的に成功する一つの方法は、ミスを減らすこと。

反対の意味で投資家が犯すミスは、慎重になりすぎること。

 

・仮にあなたが個人としては平均以上の投資家だとしても、市場平均以下の投資をしている可能性が高い。市場は機関投資家が支配しているからだ。

 

・第一に認識すべきは、投資における成功は、投資家自身の知識や能力そのものではなく、一つ一つの取引を、どれだけの知識と能力を持って処理できるかにかかっているということだ。

 

・第二に、ニューヨーク株式市場における取引の75%は、トップ100社の機関投資家によって行われている。現実問題として、個人投資家の取引のほとんどは、大機関投資家には及ばない。このトップ100社に勝つのは至難の業だ。

 

・「むやみに持ち株を入れ替えても、失敗することの方が多い」。

 

・これまで優れた投資家が守ってきた投資についての基本原則

 

①投資の最大の課題は、株式・債券・不動産などへの長期的な資産配分の決定。

②長期的な資産配分の決定に際して考慮すべき点は、成長性・安全性・毎年の収入などだが、最も大事なのは、いつ資金が必要になるか、という点。

③資産ごとにも、資産の種類ごとにも幅広く分散すること。暴落は突然起きる。

④決めたことを一貫して忍耐強く実行する。上昇相場は最も悲観的な時に起こる。一喜一憂した時の損失は大きい。「方針をきちんと立て、方針どおりに行動すること」。だからこそ、①の資産配分方針が重要である。

 

・圧倒的な競争力と情報を持ち、機敏に行動する大機関投資家が増えるにつれ、投資の現実を直視することがますます重要となってきた。しかも過去20年間、8割以上の専門運用機関は市場に負けてきたのだ。個人投資家にとって、現実ははるかに暗い。

 

 4.「ミスター・マーケット」と「ミスター・バリュー」

 

・ミスター・マーケットを無視して、実体としての企業に対する投資、すなわち、企業収益と配当の成長に注目しなければならない。

 

・歴史的に見れば、びっくりするような相場などめったにない。時おり「異常事態」は起こるが、統計的にはそれも想定の範囲内だ。経験者から見れば、全く驚くにはあたらない。そんなものに驚いて振り回されてはならない。

 

・投資は娯楽ではない。責任である。投資は本来「エキサイティング」なものでもない。むしろ原油の精製や、ICの製造工程のように、じっくり腰を据えて取り組むべき作業なのだ。投資がエキサイティングになってきたら、何かが変だと思う必要がある。ほとんどの投資家にとって、面白そうに見えるものは無視する方が良い。

 

・投資で成功するうえでの最大の課題は、頭を使うことではなく、感情をコントロールすること。

 

・「己自身を知れ」ということが、投資における鉄則。

 

・最も難しいのは最善の投資政策を作成することではない。むしろ、乱高下するマーケットに惑わされずに、特にその「天井」と「底」において、当初の投資政策を堅持し続けることである。

 

・「自分というものをきちんと理解していなければ、投資で成功できるはずはない」。

人間は感情的な動物である。働けば働くほど、多くの成果が得られてしかるべきだとも思ってる。全く非合理な生き物だ。

 

・ほとんどの投資家、運用機関、そして運用の広告は、リターンという投資の一面しか見ていない。長期的な運用の成功のためには、リスクの方がより重要だ。特に、取り返しのつかない大損害を被るリスク。

 

・人間は決して合理的な動物ではない。そして、しばしば大きく判断を間違える。投資とて例外はない。人間はえてして無意識に行動してしまう。だからこそ、日常のチェックリストを用意する必要がある。

 

・株価などは、四半期に一度見れば十分だ。もしアマチュアの投資家で売買判断を年1回以上しているとすれば、それは多すぎる。どこかでそのツケを払うことになるだろう。

 

投資信託に投資する場合、10年に1回以上入れ替える。

投信への投資は、デートではなく結婚だ。「富める時も、貧しい時も」ともにに助け合うもの。

 

・他の分野はともかく投資においては、楽観的であるよりも、客観的で現実的であることのほうがはるかに重要である。

 

・プライドと恐れ、欲望と喜び、心配などといった感情は、投資の最大の「敵」である。

 

・最大の問題は、市場変動に耐えて株式を長期保有すればそのリターンが債権を上回るか、ということではない。投資家が期待リターンを実現できるほど株式を長期保有できるか?ということだ。我々の問題であって。市場側にあるのではない。我々がどう市場を認識し、どうそれに反応するか?という問題なのだ。

 

・自分自身に騙されないように、自らのリスク許容度と運用目的を常に確認しなければならない。

 

・投資サイドのリスクは、次のように十分に削減できる。

人間らしいミスを避けること、現実的な運用目的を設定すること、その目的を達成するための有効な戦略を策定すること、そしてその戦略を堅持すること。

 

・投資の成功はつまるところ、投資家の知的能力と情緒面の能力に依存する。

知的能力とは、企業の財務諸表の分析能力、情報収集と活用、個別情報を判断資料に統合する能力である。

情緒的能力とは、市場の暴騰・暴落といった極端な場面で、冷静さを保ち合理的な判断をしうる自己抑制能力である。

 

・どの投資家にも得意分野と「冷静を保てる領域」が存在する。「己を知る」ということは自分の強みと弱みを知ることであり、この二つの範囲の内側に留まることを意味する。

二つの領域の重なる部分がスイート・スポットであり、投資家はここに集中すべきだ。夜眠れないほどのポジションを取るべきでもないし、確信の持てない分野に出るべきでもない。

 

・防御は最大の攻撃である。

投資においては高いリターンを求めることより、リスクを、夜よく眠れる水準にとどめることのほうが大事なのだ。最も得意な分野で、かつ冷静な判断を下せる範囲内に常に投資を限定すべきなのだ。

 

 

5. インデックス・ファンドは投資のドリーム・チーム

 

・投資においては、「競争上の優位」を確立し、「市場に勝つ」ための方法が三つある。

第一に、「体力」を駆使する方法である。

第二に、「知力」で勝とうとする方法である。

こうしたやり方を選ぶ投資家は意外に少ない。

第三に、「感情力」で勝つ方法である。

実は最も簡単な方法だが、ある意味では非常に難しい。

この方法で成功するのは謙虚な人である。

 

投資において勝つために、そして勝ち続けるために最も簡単な方法は、インデックス・ファンドを活用することだ。

 

 ・適切な資産配分を維持していくことが、成功のための決定的な要因となる。

 

・今日の市場環境におけるインデックス・ファンドの優れたメリット

 

相対的に高いリターン

低コスト

便利

不安や後悔を感じなくて済む

運用目的、長期投資方針といった最重要課題にだけ専念できる

 

・投資先を国内に限定するということは、自国が他国より有利というアクティブな判断の結果。

 

・インデックス・ファンドのメリットを享受するには、適切なファンドを選ぶ必要がある。それは、国際的にも最大限分散された、最小のコストのファンドだ。

 

 ・投信会社自身が販売、買い入れする投資信託と違い、ETF証券取引所の特定インデックスに従う一定の株式グループに投資するもので、取引所の営業時間内ならいつでも証券会社経由で購入・売却できる。

一方、インデックス・ファンドの購入には手数料は不要だが、ETFには手数料がかかる。だから、定期的に投資する小口投資家の場合インデックス・ファンドのほうがよい。

 

 ・ETFには若干の税務上のメリットがある。

インデックス・ファンドはインデックス構成の変化を忠実にフォローするため、年間およそ2%程度のキャピタル・ゲインが発生し、課税対象となる。

これに対し、ETFはインデックスの変化による調整を行わないため、こうした課税問題はない。

いずれにせよ、ETFにとっての小さなメリットであり、売買手数料の差を帳消しにするほどではない。

 

ETF個人投資家の長期投資というより、主として証券会社などプロの短期的なリスクヘッジ目的によって拡大してきた、ということは理解しておいた方がいい。

 

・今でもインデックス・ファンドもETFも、世界の株式市場のあらゆる地域ごとに、また割安株・成長株、大型株・小型株などあらゆる分野を対象として成長してきた。

ただ、インデックス・ファンド自体は必ずしも同じように作られているわけではない。インデックス間の構造の違いは時に大きいことにも注意すべきである。

 

・インデックス・ファンドの議論は米英・日本の大型株市場など最も効率的な市場でより当てはまるものである。

効率性の落ちる市場においては、逆にアクティブ運用が勝つ可能性も出てくるということだ。

 

・個別の国など特定投資対象に特化したETFは問題であり、よほどのプロでもない限り、投資を考えるべきではない。

 

インデックス・ファンドは市場をそっくりそのまま再現する。実際、マーケットがプロによって支配されるようになった今、市場の動きはまさしくプロの動きの総和を示す。

 

 ・アクティブ運用が市場に勝つために投入する膨大なエネルギーとコストを比較して、インデックス・ファンドは、少ないコストで優れた結果をもたらす。

 

第一に、証券市場は誰もが参加でき、自由で競争的な市場であり、そこでは強力な多数のプロの投資家が利益をあげようと激しい競争を繰り広げる。大手の運用機関は常に最新の情報を入手しているので、特定のファンド・マネジャーが競争相手に継続的に勝ち続けるのは難しい。

第二に、このような市場は「効率的市場」と言うことができる。

 将来の株価の動きを予測する法則性はない。

第三に、こうした「効率的市場」においては、株価は過去・現在・将来に関するその企業のあらゆる情報を「織り込んで」いる。

第四に、「効率的市場」における価格形成が常に正しいとは限らない。

いずれは様々な情報に基づく売買が始まり、行きすぎの訂正が起こる。その意味で十分「効率的」と言える。

だから、長期的に市場平均を上回った大手の運用機関は少なく、しかもそれを事前に知るのは極めて難しいことを、投資家は認識する必要がある。

 

・平均以上のリターンを担う平均的投資家は平均以下のリターンしか得られない。平均リターンを担う投資家こそが長期的には平均的投資家を大きく上回る。

 

・投資の成功は、運用目的を明確に把握し、適切な資産配分を策定・維持することにある。インデックス・ファンドやETFを使っていれば、投資家はこのプロセス以外のことを考える必要がない。

 

 

 6. 運用に付きまとう矛盾

 

・運用機関の大多数が、「市場に勝つ」といった無意味で難しいだけの試みに大部分の時間を費やしている。

 

市場より良い成績をあげようとするのではなく、適切な運用基本方針、つまり市場の長期的な上昇力をうまくとらえるようなポートフォリオの作成方針を策定し、かつ、それを軽々に変更しないところから成功は得られる。

長期展望と明確な目的を持った投資家が、現実的かつ十分な情報の下に作り上げた運用方針こそが、ポートフォリオを編成し、長期間の相場サイクルの中でそれを適用していく際の基礎となる。

 

ポートフォリオ運用の専門能力よりも、運用基本方針を助言する専門能力の方が質も高く、長期的にはるかに高い経済効果をもたらすにもかかわらず、ほとんどの投資家は、自分で適切な長期運用方針を策定しようとしないばかりか、このはるかに有益で重要な助言サービスを、手数料を払って受けようともしないのが実情である。

 

・投資家が良く考えた上で運用機関に説明しなければならない、六つの課題

 

第一は、当初の想定と逆の運用結果が生じた時の、具体的なリスクとは何か、という点。

第二は、逆境に直面した時の投資家の反応はどうか、ということ。

投資家はマーケット・リスクを取らなかった時の機会費用について、十分知っておく必要がある。

第三は、運用及び市場について、自分がどれほどの知識を持っているか、ということ。

投資環境についてよく知っている投資家は、何を期待すべきかについても熟知している。このような投資家なら、知識の乏しい投資家たちが有頂天になったり落ち込んだりするような状況に出会っても、冷静に対処することができるだろう。

第四は、投資家が他にどんな資産あるいは収入源を持っているか、また、対象ポートフォリオがその資産全体の中でどれほど重要なものかということ。

第五は、運用方針に何らかの法的制約があるかどうか。

第六は、ポートフォリオ価値の短期的な変動による資金不足の結果が、運用方針に影響するような事情があるかどうか。

 

平均を若干上回るマーケット・リスクと分散投資に基づく通常の最適運用方針から、どの程度離れてよいかを確かめるためにも、以上の六つの論点をよく検討すべきだ。

 

・個々の投資家の状況や目的を十分掘り下げて理解することが、一つ一つのポートフォリオの運用方針を確立する基礎となるのである。

こうした自らの基本的責任を自覚し、きちんと引き受ける個人投資家はほとんどいない。

 

機関投資家の運用につきまとう矛盾や逆説から脱却できるかどうかは、投資家自らがそのニーズと資金の役割を確認し、適切な運用目標と方針を主張できるかにかかっている。そのために、ある程度は専門家の助言に期待できるとしても、まずは自分自身でよく考えて見なければならない。

 

・投資家は自らの運用目的を改めて定義しなおすことで、市場平均に勝とうと不毛な努力を続けるのではなく、本当に重要なこと、投資家自身の長期運用方針を作り、実施するという合理的で達成可能な目標に集中できるのである。

 

 

第2部 運用を少し理論的に見てみよう

 

7.「時間」が教える投資の魅力

 

・運用期間の長さ、すなわち運用成果の測定・評価期間の長さは、どんな運用プログラムにおいても決定的な意味を持つ。適切な資産配分策定のカギだからだ。

 

・運用機関が十分長ければ、短期では非常にリスキーと見える運用手法を、大きな不安を感じることなく取り入れることができる。

 

・本当に重要なのは、投資期間の違いである。

 

・ものごとを統計的に分析するうえで、連続的な実績値から導き出されたサンプルであるということが、データの意味を理解するためには極めて重要である。

運用においても、我慢強く観察していると、一見無関係に見える年ごと、月ごと、あるいは1日ごとの結果が、まったくでたらめに現れるのではなく、長期間ではかなり予測可能なパターンに従っていることがわかる。

 

・運用方針の中で最も重要な要素は資産配分、特に株式と債券の配分比率である。

 

 

8. 収益率の特徴と中身

 

・運用収益は二つの全く異なる要素に分けられる。

一つは、利息や配当から得られる予測可能な部分(インカム・ゲイン)であり、

もう一つは、特に短期的には全く予測不能な市場価格変動に伴う利益または損失(キャピタル・ゲインまたはロス)である。

投資家は値上がり益を増やすために、大変な時間をかけて工夫をこらす。しかし、これは大きな間違いである。

 

・分析の対象は「合理的」な世界だけではない。

投資家心理、一般大衆の思い込み、政治動向、市場センチメントなどの「非合理」な要素も研究する。なぜなら、短期的には、市場および市場価格は非常に人間くさい者であり、非合理的なものだからである。

 

・大切なことは、自分自身の運用の質の高さではなく、競争相手に対する優位性なのである。

 

普通株の価格の評価はなかなか複雑に見えるものの、主として二つの要素によって決まると言っていい。

一つは、将来のある時点で企業収益と配当金額がどうなるかについての投資家のコンセンサス。

二つめは、この将来の配当と収益の現在価値を計算するのに用いる利益率、すなわち割引率についての投資家のコンセンサスである。

 

・最も重要なのは、考えられる投資のリスクの大きさと予想インフレ率である。

 

・投資家は将来の相場予測に力を注ぐ。

その手掛かりの一つは、そのカギを握る長期金利と企業収益予測である。

 

・注意すべきは、一般的に投資家は、バックミラーを見て運転するように、上げ相場ではさらに上昇を見込み、下げ相場ではさらなる下落の力が働くと考えがちだ。

この傾向を意識しておく必要がある。

 

・長期投資家にとって大切なことは、将来に対する現在のコンセンサスがどうかではなく、将来におけるコンセンサスがどうなるか、ということである。

投資家の株式保有期間が長くなればなるほど、投資価値に対する割引率の重要性は低下し、企業収益と配当実績の影響が大きくなる。

 

・投資収益率に関する二つの重要な点

 

第一は、予想インフレ率の変化が収益率に及ぼす影響は非常に大きく、特に、本質的に満期のない普通株に対して大きいということ。

第二の点は、短期では小さく見える収益率の差も、複利・長期で見ると非常に大きな差になってくること。

 

・時間が証券運用の「アルキメデスの梃子(てこ)」。

 

 

9. リスクが収益を生み出す

 

・アクティブ投資家は、投資リスクを次の四つのタイプに分けて考える。

 

一つは「価格リスク」。

第二のタイプは、「金利リスク」。

三番目は「事業リスク」。

四番目の極端なケースでは、会社が倒産するかもしれない。

 

・リスクの本質的な意味は単純である。

資金が本当に必要な時に、手元に存在しないことだ。

 

・投資家は三つの「投資リスク」にさらされている。

 

第一のリスクとは、回避はできないが、投資家がそれを引き受けることによって報われるもの。

他の二つのリスクは回避もでき、排除することすらできる。

したがって、引き受けたとしても報われることはない。

 

・回避できないリスクとは、市場全体に固有のリスクである。

 

・回避あるいは排除できる二つのリスクは相互に関連している。

一つは個別銘柄リスク、二番目は株式グループ・リスク。

 

・株式グループに影響を与える要因には共通するものが多いので、ほとんどの株式は同時に、いくつかの異なるグループに属していることになる。

そこでポートフォリオ・マネジャーは細かいことに目をつぶり、株式グループのリスクのうち主要なものだけに焦点をしぼるのである。

 

・株式グループのリスクと個別株式のリスクの双方における重要な事実は、投資家はそういったリスクを必ずしも受け入れる必要はないということだ。それらは排除することができる。市場全体のリスクと異なり、特定のマーケットの一部や特定の証券への投資リスクは、分散させることで解消する。

だからこそ、効率的市場では、個別株式ないし特定株式グループのリスクをより多く取ったからといって、市場全体の収益率を上回る追加収益は得られない。

 

・個別株式のリスクあるいは株式グループのリスクを取っても報われない、というのは重要である。

なぜなら、投資家のファンドにおいて、そうしたリスクを取るポートフォリオ・マネジャーが報われるのは、その価格が妥当でない個別銘柄ないしは株式グループを選択した時だけ、ということだからだ。

 

・リスクは、市場そのものを複製したポートフォリオに投資することで回避できる。

すなわち、ポートフォリオ構成上も、また市場全体に対する相対的収益率でも市場と同等の、つまりセクター・リスクも個別株式リスクも取らないポートフォリオを組み立てるという、至極簡単にして便利な戦略をとればよい。

市場全体の複製ポートフォリオである「インデックス・ファンド」の大きな利点は、特定のマーケットの一部や証券のリスクが分散されており、便利で安上がりな運用方法だということである。

 

・マーケット・リスクの最適水準は、非常に長期の運用の場合には平均水準より少し上である。

なぜなら、他の多くの投資家は非常に長期にわたる展望は持てないからだ。

 

資産運用における決定的な要素とは、収益率をいかに管理するかではなく、マーケット・リスクをいかに管理するかであること。

 

・マーケット・リスク水準の変更は、長期運用目的が変更されたときにのみ、なされるべきである。

マーケット・リスクの管理が資産運用の主要な目的である。

 

・証券ポートフォリオの収益の源泉は三つある

 

第一に、自分で受け入れた(または回避した)、マーケット・リスクの水準、

第二に、それを相場サイクルを通して一貫して維持することから生まれるもの、

第三に、特定株式ないし株式グループのリスクを分散させることにより、排除したり、あるいは意図的に負ったりする技術から生み出されるもの。

 

・ほとんどの投資家が意識してないのは、株式市場が過去のピークに戻るまでどれくらいかかるか、という点。

市場(S&P500)が1966年のピークに戻るまでに16年、1929年のピークに戻るにはさらにそれ以上の時間を必要としたことは、覚えておいた方がいい。

 

・長期における最大のリスクは、インフレと、投資家自身が感情に左右されることで生み出す不要なリスクである。

投資家にとって、短期のマーケット・リスクに対する最適な対策とは、足元の価格変動を一切無視して長期投資家になりきることである。

 

・リスク許容度とは、通常の市場環境とか、長期的な観点から議論されるべきものではない。リスク許容度とは、世界が最近の金融危機を通じて認識した通り、市場の極端な暴落気において、どこまで耐えられるか、というものでなければならない。

 

・収益率とは、高い収益率を求めて悪戦苦闘した結果得られるものではなく、リスク自体が生み出すものだという認識が、運用方針の概念の中核を形成する。

収益率に注目するのではなく、意識的なリスク管理に注目することこそが重要である。

 

 

 10. 効率的ポートフォリオ

 

・債券ポートフォリオの組み立ては、概念的には債券市場全体を表すパッシブ・ポートフォリオから出発する。そして、個別証券の信用リスクを避けるために多数の証券に分散され、さらに金利上昇にも備えて満期を均等感覚に設定するだろう。

ポートフォリオ全体の信用度とその平均満期は、投資家のリスク選好の度合いと、いつ、いくら資金が必要かという流動性のニーズを考慮して組み立てられる。

 

・信用調査能力の高い運用機関は、信用度が中レベル以下の債権に集中することにより、リスク調整後の収益率を増加させることができる。

 

個人投資家は個別の社債に投資してはならない。元本返済を確保するには、分散投資が絶対条件である。

運用成果を左右する決定的な要因は、どの債券に投資するかではなく、そもそも債券に投資するかどうか、投資するとすればいくらなのか、といった点である。

 

・ほとんどの投資家は、自分たちの運用はアクティブであり、主義主張を持ち、攻撃的であると考えているかもしれないが、実際には、株式投資も債券投資もまず防衛的なプロセスであり、またそうでなければならない。

 

 

 11. なぜ運用基本方針が必要なのか

 

・投資家は長期の運用基本方針を策定したら文書ではっきり表現し、確認しておくべきである。

最大の理由は、その場しのぎの方針変更からポートフォリオを守るためだ。短期的な市場危機により、方針への信頼が揺らぎそうな時、長期方針を貫き通すためである。

 

株式相場の下落は、安く買うための第一歩なのだ。

 

・ほとんどの投資家が、自分のポートフォリオが突然、巨額の損失に見舞われるのではないかと不安を抱いている。しかし、それは株式市場の長い歴史を研究し理解した人から、そうした損失が普通は起こりえないことを事前に教えられていなかったからである。

 

・過去を客観的にじっくり研究することが、運用と市場の基本的性格についての理解を深める最良の(そしてコスト面でも最良の)方法である。だから、過去何十年間の収益率及び平均値からの乖離パターンを検討し、市場が、特に暴落・暴騰局面でどのように動いてきたかを十分に勉強すれば、見返りがあるということ。

 

・ミスを減らすためには、現在(あるいは過去)を検討するよりも、歴史を振り返る方がはるかに有意義である。

 

・マーケットは常に人を驚かせてきたし、今後もそれは変わらない。市場の現象的な面は毎回違って見えるものの、本質的な部分は見事に変わらない。

 

・目的通りの成果を達成できれば、投資家として成功と言える。それは、自分自身の長期的目標に合わせて自らが選択した長期運用方針に従うことにより達成される。

 

 

12. 成功する運用基本方針策定のポイント

 

・成功の第一の秘訣は、ミスター・マーケットの仲間たち、証券会社や、投資信託から送られてくる膨大な宣伝広告、ファンドの運用成績、市場見通しの類を一切無視すること。

第二に、投資家自身の最大の目標を達成するうえで、長期的にも最も可能性の高い運用基本方針を策定することだ。成功するかどうかは、他人との比較で決まるのではない。自分自身との戦いだ。

 

・運用のプロセスは一見複雑に見えるが、次の5段階に整理するとわかりやすい

 

<第1段階> 自分自身の長期運用目的の確認と、その達成のために望ましい資産配分比率の策定...株式・債券などへの配分。

<第2段階> 株式ポートフォリオの構成の決定...成長株対割安株、大型株対小型株、国内株対海外株など。

大型基金の場合、債券などについても同様な検討が必要。

<第3段階> アクティブ対パッシブ比率の決定...多くの投資家にとっては、長期的にはパッシブがお勧め。

<第4段階> 個別ファンドの選択...残念なことに、ほとんどの投資家はこの点にほとんどの時間を費やす。

<第5段階> アクティブな運用...個別銘柄の選択・売買実行。

 

最小コストで最大効果を生み出すのは、第1段階である。

第4、第5段階の個別ファンドや個別銘柄選択は、最もコストがかかる割に効果はほとんどない(アクティブ運用を熱心にすればするほど、税金やコストがかかる)。

私たちはえてして第5段階の個別銘柄選択で勝とうと夢中になる。にもかかわらず、このゲームのコストは最大となり、得られるものはほとんどないという事実である。

それどころか、市場に勝とうと夢中になるあまり、低コストで高いリターンも見込める第1段階の重要なゲームを忘れてしまう。

 

・ほぼすべての資産配分が低コストのインデックス・ファンドで達成できる以上、アクティブ運用を志向するためには、その追加リスクとコストを十分に正当化するだけの、現実の追加リターンが確保されるものでなければならない。

 

「時間」、すなわち想定投資期間というものは、ポートフォリオごとの適切な運用目的を規定する最も重要な要素である。

 

流動性については、ポートフォリオがその投資期間に見合った証券に運用され、十分に分散されている限り、特別に考える必要はない。

 

・多くの投資家が、長期運用に専念するために、日常の支出をまかなう資金を手元に常時確保しておくことは妥当だが、「ポートフォリオの中の」キャッシュ比率はミニマム、できればゼロでいい。

 

・支出が運用に影響を及ぼすのではなく、まさにその逆である。

支出の決定は運用成果によってのみ支配されるべきものであり、その運用成果は運用方針によって決まるのである。市場があなたの期待通りのリターンを出してくれることなど、あるわけがない。

 

・2,3年に一回、投資家のニーズとその目的、その間の経験、運用方針などについて、体系的・総合的に見直すとよい。

 

 

13. 運用成果測定の狙い目は何か

 

ポートフォリオ運用の成績は、少なくとも短期間では十分な意味を持たない。

 

・長期にわたって市場平均を2%以上上回る投資信託は存在しないという事実。

にもかかわらず、有名ファンドのほとんどは、計測期間を都合よく選ぶことで、最低2%は市場に勝っていると宣伝している。

 

・生存者バイアスと新規参入バイアスという統計上の二つの誤差を合計すると、優に年率1%を超える。そして通常この誤差は、採用した運用機関の超過収益を上回る。投信の宣伝文句に使われる「最高の運用成績」という意味は、そのよに理解すべきなのだ。しかも、それは「過去」のデータである。

 

・運用成果の測定結果を利用する時に重要なのは、データに含まれている三つの異なる要素を区別して捉えることである。

 

第一の要素は「サンプルの抽出の偏り」。統計値が事実を正確に反映していない可能性。

第二の要素は、測定期間中の市場環境が、運用機関の運用方法にとって有利なものだったかどうかということ。

ほとんどの運用機関が、少なくとも市場の1サイクル以上の上昇および下降期間を取って評価されるべき理由はここにある。

第三の要素は、運用機関の技術。またはその欠如である。

 

・格付けは過去の成績だけに基づいている。最も広く知られたこの格付けは、投資判断委は危険だということ。

実際、Morningstarもその格付けが将来的なパフォーマンスの予想にはほとんど役立たないことを率直に認めている。にもかかわらず、新規の投資資金のほぼ100%はその「五つ星」あるいは「四つ星」投信に流れている。

 

・マーケットを2%上回るリターンを確保できるファンドが全体のわずか2%だとすれば、そしてこの2%の可能性に賭けるようなギャンブルをしたくないのであれば、投資先はインデックス・ファンドにしぼられる。インデックス・ファンドなら売買回転率が低く、したがって税金の負担もそれだけ低い。

 

・長期になればなるほど、市場水準以上のリターンをあげられる確率は低下する。

 

・大事なのは、現実的な目標から予想外に、また説明もなく外れた時は、パフォーマンス悪化のサインとみなすこと。

 

短期において成績が期待水準よりも離れることは、たとえ収益が期待を上回っていたとしても、マネジャーが果たすべき責務を果たしていないことを示している。そして、マネジャーが果たすべき責務を果たしていない時、ポートフォリオに対するコントロールも失っていることが多い。長期的には、これはパフォーマンスの低下を意味する可能性が高い。

たしかに、低い収益よりも高い収益を得る方が良いに決まっているが、どちらも目的地からずれていることは同じであり、投資家はファンド・マネジャーの「運」「不運」と「実力」を混同してはならないのだ。

 

・目的を持ったデータこそが情報と言える。

運用成果の測定は、有効な基準が明確に設定されて初めて役に立つ。言い換えれば、その時点のポートフォリオ運用が、長期の運用方針に忠実に合致しているかどうかを判定することでなければならない。

 

・強調したいのは、運用成果の評価というものは、そもそも投資家の関心と注意を長期運用方針から短期的な運用成果にそらし、結果として非生産的な思考と行動を生み出す傾向があること。

 

・賢明な投資家なら、たまたま市場と一時的に調子が合わず、パフォーマンスが満足できないような場合にも、基本的に良識を持ったプロの運用機関となら一緒にやっていけるということ。

 

運用成績が低かったとする。それは運用機関のスタイルがたまたまその時の市場動向に合わなかったからであり、計画自体はうまく実施されていたならば、投資家はその運用機関に、より多くの資金を委ねるべきである。なぜなら、市場動向がその運用機関のスタイルに適した方向に動いた時には、その運用機関は市場平均以上の収益をあげると予想されるから。

これが、パフォーマンスが平均値に回帰するということの「プラス」の側面である。

 

 

14. 市場予測の難しさ

 

・将来のリターンをある程度正確に予想するには、将来のPERと利益水準が歴史的な上限と下限の間にあると仮定すること。

 

・投資家にとって重要なことは次の二点

 

第一に、企業収益(そして配当)水準である。

第二に、株式が1株当たり利益の何倍まで買われるかという倍率、すなわちPERである。

 

 

第3部 個人投資家への助言

 

15. 個人投資家にとっての課題

 

個人投資家は、機関投資家とは大きく違う。

 

一つは税金の問題。

アクティブ・マネジャーが運用する株の平均保有期間は通常1年で、その分個人投資家に税負担が発生している。

もう一つの違いは、人間はいつか必ず死ぬという厳然たる事実である。

人間として、投資家として、その長さは限られている。

もう一つの点は、お金がしばしば重大な象徴的意味を持ち、人間の感情に強く、多くの場合強すぎる影響を及ぼすこと。

さらに重要な違いは、個人投資家は贈与や遺言といった形で、他人に対して資金面でも感情的にも強い影響を及ぼす。

お金の持つ感情面への影響力と象徴的な意味合いは、しばしばその経済的な影響力よりも重要であり、個人投資家はこの二つの要素をいろいろ考えておかなければならない。

 

個人投資家が市場を見ながら売買する時は大体失敗する。

彼らはマーケットの中心から外れているため、楽観すぎたり悲観すぎたりして上昇相場にも下降相場にも乗り遅れるからだ。

 

・あらゆる問題には一つの恐るべき、そしてあまりにも過小評価されている共通の敵がいる。

インフレーションという敵だ。

 

・たいていの投資家は自分自身の資産と負債の全容を検討したこともなければ、文書にすることもない。そして、このバランスシート上の責任に関して、直接間接にどれだけの支払いが求められるかを明確に意識している人はほとんどいない。まずこの点を明らかにする必要がある。

 

・貯蓄の第一の目的は、イザという時に備えることだ。

準備額は、使い切るためのものであり、使わないものを持ち続けるには、目に見えないコストがかかっている。イザという時の資金準備をしたうえで、それ以上の貯蓄は長期投資に回す。

 

若い勤労者の最大の資産は毎年の給与収入を稼ぐ力だ。

この毎年の収入は、言わば債券を持っているのと同じ効果がある。つまり若い世代の資産の大部分は、債券とみなすこともできる。

 

・子どもや配偶者や学校などに贈ることで、はるかに長期間の投資は可能であり、投資期間を本人の人生の長さに限定する必要はない。

 

・もしあなたが他のほとんどの投資家と同様、コツコツとお金を貯め、今後とも株を買い続けていくとすれば、あなたにとって本当に有利なのは、奇妙なことではあるが株価が大きく値下がりし、低迷を続けることである。

そうすれば、同じ金額でも、より多くの株数をより安い価格で買い続け、その結果、より多くの配当を得ることができる。

 

・年に一度、時間をかけて自らの長期運用目的、財産状況、支払い責任、目標と比較した運用実績などを検討することで、投資の目標達成に一歩近づく。資産配分の実績をチェックし、基本方針とのズレを修正する良い機会となる。こうした検証結果は記録して保存するとよい。自分自身を知る助けとなり、次回の検証にも役立つ。

 

 ・一度マネーゲームに勝利したら、さらに大勝を狙って勝負に出てはならない。勝利者でなくなるほどのリスクなど、考えるに値しない。その場合は、敗者というだけでなく、大馬鹿者ということになる。

しかし、勝ったからといって、ここで述べたような意味で用心深くなりすぎるのも良くない。文字通り「保守的な」運用に移行したりすれば、インフレの影響をもろに受けることになる。

 

個人投資家のための十戒

 

①貯蓄すること。

②相場の先行きに賭けてはいけない。

③税務上有利という理由で動いてはならない。

④自分の自宅を投資資産と考えてはいけない。

⑤商品取引は考えものである。

⑥証券会社の担当者に気をつけなさい。

⑦いわゆる新金融商品に投資してはならない。

⑧元本、利息が安全だとか、リスクが少ないという理由だけで、債券に投資してはいけない。債券価格も株式とほとんど同様に変動するし、さらに債券は、長期運用にとって真のリスクであるインフレに弱い。

⑨長期の投資目的と投資方針、資産計画を文書にして書き出し、それに沿って行動すること。最低10年に一度、できれば毎年それを見直すこと。

⑩直感を信じて投資してはいけない。

 

最後に、401(k)プランなど、確定拠出年金の加入者に一言。

お勧めはインデックス・ファンドである。自分の会社の株には、どんなにいい会社でも、投資しないことだ。会社に勤めているということはそれ自体、収入のすべてを依存しているという意味で「リスクを取っている」からである。

年金の積み立てにおいて最も重視すべきなのは「安全性」であり、つまりは「守り」が重要だ。

 

 

16. 投資信託、どう選ぶ

 

・アクティブ運用の投信の場合、どれか一つのファンドにしぼるのは意識的に避け、大くくりに考えた方がよい。最高のファンドを探すのではなく、株・債券などさまざまな種類の投信を供給する、優れた運用機関を探すのだ。過去数年の成績は問題ではない。

投資で長期的に成功するカギは、高い専門性を求める投信会社自身のカルチャーにある。

運用機関の経営陣の個性と企業文化は、良くも悪くも簡単には変わらない。だから、優秀な人材を30~40年にわたって惹きつけるような企業文化こそを探さなければならない。一貫した投資哲学を語り続ける会社を探すべきだ。

 

・評価が確立し、長期的に優れた運用実績を持つ運用機関で、高度の専門的プロのファンド・マネジャーが経営者を尊敬し、働きたいと思うような会社である。

 

・「長く付き合えるファンド」ということが、個人投資家の投信選択の基本であろう。

ファンド乗り換えは、二重の意味でマイナスの働く。

 

まずコストだ。

第二に、乗り換えタイミングが通常遅すぎて、その後の利益はあまり期待できないことだ。

 

・いくつぐらいのファンドに投資すればよいのか?

主要な投信会社の供給するさまざまな投資商品・スタイルのいくつかに分散投資すればよい。インデックス・ファンド、成長株ファンド、割安株ファンド、大型株ファンド、小型株ファンド、マネーマーケット・ファンド、不動産投信、国際分散投資、等々である。

専門性の高い投信会社の供給するファンドであれば、どれも共通の専門的水準、妥当な手数料と投資家サービスを期待できる。

投資家が信頼できる専門性と運用実績を備えた1社から、複数のファンドを選択する意味はそこにある。

 

・まず、自分自身の運用目的を確認し、どこまで一貫してそれを意識的に続けられるか、確認する必要がある。

これまでの自分の投資判断の記録を見て、投資家としての成績をチェックするとよい。特にいくつかの相場下降期にどこまで耐えられたかがポイントだ。

 

・次に、市場の現実を直視し、ファンド・マネジャーに高望みしないことだ。

 

・最後に、長期目標に向かって着実に進むという基本方針を堅持し、市場の変動を無視することだ。

 

・ワンランク上の選択方法

卓越した企業文化を持ち、長期的に高度の専門性を持つ数社の中から市場環境と合わないために過去数年の成績が振るわないファンドを選ぶことだ。

環境が好転すれば平均回帰の波に乗って、プラスアルファのリターンを得られるだろう。

 

・インデックス・ファンドという容易な選択肢がある以上、アクティブ運用のために追加手数料を払うという決定は慎重を期すべきだ。

 

 

 17. 手数料は高い!

 

・アクティブ運用手数料の実態は、一部の批判の声をはるかに上回るほど高い。

仮に年率リターンが平均8%と仮定すれば、手数料率は、個人で12%以上、機関投資家で、6%以上ということになる。

 

・すべての付加価値と、時にそれ以上が運用機関の懐に入り、資産を委託しすべてのリスクを背負う投資家にはほとんど何も残らない。奇妙なビジネスと言う他ない。考え直す必要がある。

 

・今日の株式市場は、プロの企業価値と市場価格についての投資判断の総和を示すこととなる。言い換えれば、アメリカ株式市場はすべてのプロの予測の総和を示す、ということだ。このプロ全体の判断である市場平均に勝とうとするのは、極めて困難だ。

 

・運用手数料の上昇傾向と超過収益の低下傾向を考慮すれば、「手数料は安い」という見方に疑問が生じるのも当然だろう。実はアクティブ運用の手数料は、非常に高い。

 

個人投資家でも機関投資家でも、ETFやインデックス・ファンドへの志向を強め、これらの運用機能を持つ運用機関の資産が増加してきたのも無理はない。

 

 

18. 生涯を通じた投資プランを立てよう

 

あなたと家族にとって、より効率的な意思決定は、おそらく100%株式に向けることだろう。というのは、あなたの投資対象期間はあなたの人生よりもはるかに長いからだ。

 

・誰もが所有しているかにかかわりなく、現在と将来の価値を持つ。だからこそ、運用はそれ自身の理由に基づいてなされるべきであり、歳を取ったからとか引退したからという理由で、運用方針を変えるのはおかしい。

 

・投資家が理解しなければならないのは、二種類のリスク、

「市場リスク」と「インフレ・リスク」である。

 

・市場リスクを取らなければインフレ・リスクに対抗できない。

 

・インフレが富の実質購買力を容赦なく破壊していく、しかも経済成長が富を蓄積していくスピードとほとんど変わらぬ速さで。

インフレのすさまじい破壊力こそ、明らかに投資家にとって最悪の敵である。

 

・運用の「時期」と「方法」とを明確に分けて考えなければならない。市場はあなたの希望や計画にはまったくお構いなしに動く。市場に合わせるべきは投資家であって、市場は投資家に合わせてはくれない。

 

ドル・コスト平均法で投信を買い、あるいは銀行口座からの自動引き落としや給与天引きで毎月一定額を積み立てる仕組みは、優れた方法である。

勤務先に確定拠出型年金制度があれば、限度いっぱい使うべきだ。

 

・インフレは投資家にとって、税金よりはるかに深刻な問題である。

 

・特に気を付ける点がある。

いわゆる利回り株に投資する比率が高ければ高いほど、当面ポートフォリオからの収入は増える。しかし、他の投資家も合理的であり、彼らは将来の高いリターンを期待できる限りにおいてのみ、現在あなたに高めのリターンを認めているに過ぎない。

つまり、現在の利回りが高いと見えるうちの一部は、まさしく元本減少リスクに対するリターンなのである。

 

・引退後は、とにかく安全第一だ。

毎年の支出額を資産の3年移動平均の4%以下に抑えることだ。インフレに備え、過大な支出を抑えるためだ。

 

・生計を投資収益に依存する人々にとっての強みは、株式配当は原則として減ることはなく、一般にインフレ率と同程度には成長すること。

 

・貯蓄と資産形成目標を明らかにしたうえで、現実的な期待収益率と想定運用期間を決めれば、引退後の必要金額を確保するために、長期投資として毎年どのような成果が必要かを計算することができる。

この計算をするうえで、会計士や運用アドバイザーが役に立つ。

 

・ほとんどの個人投資家は、主要な投信会社から有効な運用アドバイスを1000ドル以下の料金で(しかも10年に1度)受けることができる。他方、彼らは売買手数料、投資顧問料、保管手数料など、投資を実行するためには毎年1万ドル以上、定期的に払っている。

投資家が、気づかないからとはいえ、価値の少ないものに対してより多くの手数料を払おうとしているのも、皮肉なことである。

 

・最も大事な意思決定のルールとは、次の二つ

 

①10年以上運用する資産はすべて株式に投資する。

②2、3年以内の運用資産は「現金」ないしマネーマーケット資産に投資する。

 

 

 19. 2008年の大暴落

 

・もし、信じられないほどの好成績という時は、結局どこかおかしい。信じてはいけない。

 

個人投資家にとっての最大のリスクとは、相場の暴落ではなく、恐怖に駆られて相場の大底で保有株を投げ、その損失を確定してしまうこと。

大暴落ごとに、ほとんどの投資家がこうした落とし穴にはまっている。

 

・長期投資家にとっては、株を売ることが常に最悪なのだ。しかし、多くの投資家が常にこうした行動を取るのも事実だ。

 

・大暴落の後で、投資家の取るべき道は二つ

長期的な政策資産配分比率にまで株式比率を引き上げるか(リバランス)、

むしろ株式への配分比率をそれ以上に引き上げるかである。

 

金融危機を引き起こした原因は、多くの人が「我々はリスクを十分に管理している。今回の相場は今までとは違うのだから大丈夫だ」と考えるようになったことが最大の要因だったといってよい。

「今回は違う」なんてことは決してない。個々の現象はともかく、経済原則はいつの世も変わらない。

 

 

20. 401(k)投資家へのアドバイス

 

・若い401(k)加入者の多くが、引退まで何十年もあるにもかかわらず、その投資先にマネーマーケット・ファンド等の低リスク運用を選んでいるのは気になるところだ。

ライフサイクル・ファンド」や「ターゲット・デート・ファンド」といった、時間とともに資産配分を自動的に変えるファンドを前向きに検討してはどうだろう。

 

・401(k)に関するアドバイス

 

①会社に対する忠誠心と投資とは峻別すべき。

②運用機関を変えてはいけない。

③市場動向を見ながら投資判断をしてはいけない。

④給与天引きの貯蓄がよい。そして、給料が上がるたびに、天引き額も増やすとよい。

⑤手数料に注意すべき。

 

 

 21. 人生の終盤で成功するために

 

自分の資産を活かし、その本来持っている価値を最大限活用することで何ができるのか?

それを決めることは、貯蓄の仕方、運用の仕方を決めるのと同様に、極めて重要だ。

目標は三つある。

 

第一は、自分自身の引退後の生活資金の確保。

第二が愛する者への遺産。

第三の社会への「お返し」も、心に励みと充実感を与える。

 

富は、良くも悪くも力を持つ。そして莫大な富は強力な力を意味する。大成功を収めた投資家は、自分自身の希望や意志はともかく、子どもたちに残す莫大な遺産がかえって子どもたちの価値観を歪め、彼ら自身で富を築く喜びを奪ってしまうというマイナス面も良く考える必要があろう。

 

贈与税は個別に計算されるが、相続税は、相続財産全体をもとに計算される。

 

遺産税を遺産という資産に対する課税と捉えずに、自分の財産の分配について生きている間に(特に若い時期に)重要な意思決定ができなかったことに対するペナルティーと理解することもできる。もしあなたが遠い将来における財産の処理について、今、取り消し条項のない決断をすることができれば、その節税効果は相当な額にのぼるだろう。

 

・教育は、一般に最高の投資だ。

教育は、将来長きにわたって収入を増やす力があり、生活を豊かにし、人生の選択も広げる。

もう一つは健康への投資だ。

健康であれば寿命が延び、医療コストを減らすこともできる。

 

「子どもに残す理想的な金額は、それで、(したいと思うことを)何でもできる額であり、何もしなくてもよい、と思わせてはいけない」

ーWarren Buffettー

 

・富とは、これまでの労働想像力幸運の結果の積み重ねなのだ。

 

 

22. 資産家のためのアドバイス

 

ヘッジファンド

 

ヘッジファンドには大きく分けて二種類ある。

 

一つは、天才的なプロが運用するファンドだ。

もう一つのタイプのファンド・マネジャーは、第一のタイプと全く同じことを語るが、高額報酬を得ることにしか興味のない連中。

 

・問題は、あなたが投資するヘッジファンドが好成績を長年にわたって継続できるかどうか、特にヘッジファンドに資金が流れ込んで、有利な投資機会に対する競争が激化していったらどうなるのか、ということ。

 

ベンチャー・キャピタル

 

・優れたベンチャー・キャピタルのマネジャーは、単に画期的な商品を見つけて投資しているだけではない。そうした能力に加え、彼らは積極的に経営に関与していく。駆け出しの起業家たちは、成功した先輩から優れたベンチャー・キャピタルの活用法を学ぶことができるのだ。

 

・最高のベンチャー投資家は、彼らがカバーしている業界の大企業、中堅企業、小企業の事情を熟知している。

 

・優れたベンチャー・キャピタルのマネジャーは、ベンチャー企業が経験を積むにつれ、どんどん商品や販売先市場を変えていくこともわかっている。

必死に成功を求め続ける起業家の熱意こそが、ベンチャー企業の成功の最大のカギだからだ。

 

・唯一の問題は、最高のヘッジファンド同様、最高のベンチャー・キャピタル・ファンドは、新規投資家には閉ざされている。投資枠を拡大したいという長年の既存投資家の希望すら十分には受け入れられないのが現状だ。

一口に言えば、投資したいと思うようなファンドには投資できない、ということだ。

 

不動産投資

 

・世界の大富豪の多くは、不動産投資で財を成してきた。課税上の優遇措置を最大限に活用してきたからだ。

 

・もしそれだけの時間をかけずに不動産投資をするなら、証券取引所に株式として上場されたREIT(不動産投資信託)がよいだろう。

その価格は不動産市場と株式市場全体の動きを反映する。REITの長期リターンは株式市場全体にほぼ等しい。

 

コモディティ投資

 

コモディティの売買に参加するトレーダーは、投資しているわけではなく、自分の判断は市場より正しいと信じて賭けているのだ。

 

 

終章.  敗者のゲームに勝つために

 

・投資家は、自分の置かれた投資環境やリスクに対する精神的な許容度、マーケットの歴史を詳しく把握しておく必要がある。市場の現実と、投資家側の経済的・精神的なニーズの間にずれが生じると、2008年にもみられたように決してよい結果は生まれない。

 

・アクティブ運用に勝つ唯一の方法は、他の投資家のミスに、相手よりも素早く乗じることである。したがって、ほとんどの投資家と運用機関は思うような結果を出せないだろう。

 

・「敗者のゲーム」に勝つ方法もある。それは、時代遅れとなった従来のルールでプレーしないことだ。

 

・市場に勝とうとして虚しい努力を続ける「敗者のゲーム」から、長期資産配分と運用基本政策の確立・堅持という「勝者のゲーム」へと移っていった。

 

・幸いなことに、個人投資家はプロの投資家に「勝つ」必要はない。マーケットに勝たなくとも、投資に成功することはできる。「マーケットに勝つ」ことばかりに気を取られていては、自分自身にとって最適の長期投資を行うという、もっと重要な目的がおろそかになってしまう。

 

・「投資は単純である。しかし、単純なことを実行するのが難しい」

ーWarren Buffettー

 

・慎重に検討された投資政策を選択し、その政策を守り続けることこそ、投資で成功する最良の近道である。そのために、何か複雑な行動をとる必要はない。ただ、マーケットの上昇・下落に振り回されてじたばたしないこと。

 

・投資家としての責任を果たすうえで、必要な資質は次の三つ

 

自分自身の長期的な目的や利益を掘り下げて理解しようとする意欲。

「ミスター・マーケット」の誘惑などを含めた、資本市場と投資に関する基本的な理解。

自分の投資目的に見合った投資政策を決定し、それを堅持する自己規律の精神。

 

・投資の本来の目的とは、「市場平均以上のリターンをあげる」ことではない。投資家としての基本的責任を受け入れ、現実的な運用目的を達成しようとする人にとって、最適な投資を実践すること。

 

 

付録B オリエント急行の殺人事件

 

・今後勝ち続けるマネジャーを見つけ、成績の落ちるマネジャーを事前に解約することが至難の業である以上、彼らの経営戦略として、防衛的に多数のマネジャーに分散することを助言することにこそ、特定のマネジャーのの成績不振、それに伴うコンサル契約解除(将来の収入減)のリスクを避ける現実的方針だろう。

 

 

 

・投資に成功するということは、値上がり株を見つけることでも、ベンチマーク以上の成績をあげることでもない。自ら取りうるリスクの限界の範囲内で、投資目的達成のため、市場の現実に即した長期的な投資計画、特に資産配分方針を策定し、市場の変動に左右されず、強い自己規律の下で、その方針を守っていく、ということだ。

そうすれば、長期的な経済成長に見合う各資産の長期リターンを獲得することができるという。

 

・401(k)が運用判断と長生きリスクの責任を全面的に従業員に負わせる一方で、従業員側にはそれに対する用意ができていない。

 

・「まず自分自身の目標と限界を確認し、それをもとに運用方針を策定せよ」。

 

・投資行動には、その人の人となりがすべて現れる。

 

 

 

 

以上。これらの知識を活かして、市場平均に勝とうとする「敗者のゲーム」ではなく、自らに合った長期運用方針を策定して運用を行ってみてはいかがだろうか。

 

 

 

 

link below ↓